労働条件が不利益変更されたらどうする?まず就業規則の変更を確認

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2020年10月1日以降の自己都合退職者は、失業手当の給付制限期間が短縮される変更があります。

賃金や労働時間、残業から退職金など、労働するための条件が一方的に不利益変更されるケースがあります。

原則として、就業規則を変更するだけでこれらの条件を勝手に不利益変更することは認められていません。この記事では、違法となる要件とその裁判例、違法な不利益変更の争い方についてお伝えします。

手当減額・労働時間延長・休日削減…具体例でわかる不利益変更

ある日急に給与を減らされた……

そのような扱いが簡単に認められると、働く人の生活は非常に不安定になってしまいます。そこで、労働契約法は、一方的な労働条件の不利益変更を原則として禁止しています。

不利益変更禁止の原則とは?

不利益変更禁止の原則とは、使用者が就業規則の一方的な変更によって、労働者に不利益な労働条件に変えることはできないという労働者保護のための原則です(労働契約法9条)。なお労働者との合意があれば、不利益変更であっても労働条件を変更することは可能です(労働契約法8条)。
例外はあるの?

例外として、①変更内容が合理的であり②労働者に変更後の就業規則を周知する、という2つの条件を満たしていれば、一方的な不利益変更も認められます。合理的かどうかについては、不利益の程度、変更の必要性、変更後の就業規則の相当性、代償措置、労組との交渉の経緯や従業員への対応が考慮されます。

労働条件・契約の不利益変更の例は?

実際に不利益変更の例として、一定年齢以上の従業員の賃金を大幅に減額したケース(最判平成12年9月7日)、定年年齢の引き下げにより、退職を余儀なくされた従業員への退職金基準支給率引き下げが問題となったケース(最判平成8年3月26日)で、不利益変更の効力を否定した判例があります。
肯定された例は?

逆に変更の効力が肯定された不利益変更の例として、完全週休二日制導入にかわる平日の労働時間の延長(最判平成12年9月12日)、定年延長に伴う賃金水準の変更(最判平成9年2月28日)、退職金の支給倍率の引き下げ(最判昭和63年2月16日)、定年制の導入(最判昭和43年12月25日)などがあります。

不利益変更には同意しなきゃいけない?

労働条件の不利益変更は、原則として労働者から同意を得なければなりません。そのため、労働者は、その変更が受け入れがたいものであると感じたならば無理に同意する必要はありません。
同意してしまったら?

また同意書を書いてしまっていても、自由な意思に基づいて同意をしているとはいえないと判断される場合もあります。実際に、賃金や退職金の変更など労働者への不利益が大きい変更については、ただ署名押印をしたというだけでは同意があったとはいえない、とした判例があります(最判平成28年2月19日)。

不利益変更が法律上違法・無効となる要件とは?

違法とはいえ、実際に労働条件が不利益に変更されるケースはままあります。どのような場合に、不利益変更は違法無効となるのでしょうか。

就業規則の変更手続きは必要?

不利益変更を就業規則の変更によって行う以上、変更手続き自体が適法に行われている必要があります。一般的に要求される手続きとしては、①新しい就業規則案を作成し、②その変更について従業員代表者から意見を聴取し、③変更届を「労働基準監督署」に提出し、④従業員に周知することが必要です。これらの手続きを踏んでいない場合は、不利益変更が違法・無効となる場合があります。
④の周知とは?

特に④の周知が徹底されていない場合が多いです。労働基準法第106条等によれば、以下のような周知方法が定められています。
・事業所の中の見やすい場所への提示、備え付け
・書面での交付
・パソコンで労働者がアクセスできる状態にしておく
もしこのいずれにもあたっておらず、事実上就業規則の周知がされていない場合には、労働基準監督署に相談をしてみましょう。

就業規則の不利益変更への同意書は有効?

就業規則の不利益変更について、個別に同意書を求められる時もあります。もし労働者が労働条件の変更について真意から同意をしている場合には、就業規則の変更手続きなどに関わらず、有効に労働条件が変更されます。そのため、有効な同意書があれば、不利益変更も有効となるでしょう。
真意に基づかない場合は?

一方で、上司や部下の関係を利用して強制的にサインをさせた場合など、真意に基づかない同意書は無効となります。そうなれば、就業規則の変更手続きが有効にされていない一方的な労働条件の変更も違法無効なものとなってしまいます。

判例ではどんな違法の不利益変更がある?

不利益変更を違法と判断した判例も数多くあります。違法と適法の二つの場合について紹介します。
判例を確認する

【違法と判断されたもの】
・給与減額(京都地判平成26年11月27日)
運送業者が、一方的に給与を減額したケース。赤字が深刻とまではいえず、団体交渉においても決算資料などを誠実に提示しなかった点などを考慮し、違法だと判断した裁判例。

・賃金体系の変更(最判平成12年1月31日)
証券会社が降格や減給可能な変動賃金制度を一方的に導入したケース。業績悪化の事実は認めながらも、当該体系の導入によって安定した賃金を受けられる可能性が大幅に低下し、かつそれに対する代替措置もない点を考慮し、違法だと判断した裁判例。

・賃金体系の変更(最判平成12年9月7日)
銀行が、少数組合の組合員だった従業員のみの賃金が減額するような形の賃金体系に一方的に変更したケース。多数組合の同意は得ていても、特定の者のみが理由なく不当に賃金を事実上減らされてしまう点、そのような特定の者に対する経過措置も設けなかった点などを考慮し、違法だと判断した裁判例。

【適法と判断されたもの】
・給与減額(東京高判平成26年2月26日)
深刻な赤字状態の自動車学校運営会社が、一方的に給与を減額したケース。減額前に労働組合との団体交渉を20回以上実行し、誠実に対応したうえ、減額後も同じ業種の他社より高い賃金水準だったことを考慮し、適法と判断した裁判例。

・賞与・昇給制度の撤廃(大阪地判平成29年4月10日)
農協が、57歳以上の職員に関して、賞与と定期昇給の制度を一方的に撤廃したケース。赤字が数回出るようになり、57歳以上の従業員への人件費が重い負担となっていたことや、既に57歳以上の従業員の給与は高額であり、しかも賞与や定期昇給について具体的権利としてもともと規定に記載されていなかった点を考慮し、適法と判断した裁判例。

・退職金減額(大阪高判平成29年4月20日)
学校法人が、一方的に退職金を減額したケース。深刻な赤字が続いていることや労働組合と何回も誠実に交渉を続けてきたこと、また役員報酬の減額や役員自体の削減も行ってきた点を考慮して適法と判断した裁判例。

退職金や給与などの不利益変更を争うにはどうすればいい?

労働条件の不利益変更によって、本来貰えるべき退職金や給与が貰えない場合、どのように争えば良いのでしょうか。紛争解決手段を選ぶ場合は、時間やお金がどれ程かかるのかを確認しながら決めることが大切です。以下で争うための代表的な手段をお伝えします。

不利益変更の相談は労基にすべき?

不利益変更が違法でないか不安な場合は労基署に相談すべきです。労働基準監督署(労基署)とは、労働に関する法律を会社が遵守しているかを申告や臨検監督でチェックし、指導票や是正勧告書の交付によって、働く人の権利を守る公共機関です。会社が労働法規に違反しているのではないかと感じた際はまず相談してみましょう。
労基の対応は?

相談内容から、労働契約法9条違反が疑われる場合は、労基署が申告監督として立ち入り調査に入ることがあります。会社内で実際に就業規則等を確認し、違反があれば是正勧告書を出してくれますし、違反でなくとも改善が望まれる場合は「指導票」を出してくれます。行政指導ですので、法的な強制力はないのですが、事実上会社に対するプレッシャーとなり、自発的な改善が望めます。

不利益変更を争うには裁判が必要?

不利益変更を争うために裁判は有用ですが、絶対に必要とまではいえません。もちろん、法律違反を最終的に争う場合は、民事裁判となります。もし違法な不利益変更によって退職金や給与が減った場合は、その差額を損害賠償請求できます。あまりに会社の対応が酷い場合や、一方的な変更によって著しく大きな不利益が発生した場合は、精神的損害として慰謝料が認められる可能性もあるでしょう。(コナミデジタルエンタテインメント事件:東京高判平成23年12月27日)
裁判の注意点は?

ただ、労働関係の民事裁判は、第1審の判決まで平均14ヶ月かかるといわれています。時間だけでなく、精神的・金銭的コストもかかるため、その不利益と比べながら裁判を起こすかを考える必要があります。まずは弁護士に相談し、見通しを聞いてみましょう。より迅速な手続きで済む、労働審判という選択肢もあります。

不利益変更前の給与・退職金をもらうには?

不利益変更前の給与・退職金をもらうためには、労基署への相談、裁判以外にも労働組合に相談することも有効です。労働組合は働く人に代わり、会社と交渉をしてくれます。団体交渉によって、就業規則による労働条件の不利益変更が違法であることを主張し、不利益変更前の給与・退職金を支払ってもらえるように説得することが可能です。
裁判とどっちが早い?

団体交渉の経験が豊富な労働組合であれば、裁判よりも迅速に解決をすることが可能です。先方が拒否し続けた場合、法的に支払いを強制することはできませんが、交渉力によって時間的・精神的・金銭的コストを削減することが可能になります。もし相談する際には、組合費がかかるのか否か、労働条件の不利益変更について扱っているかを注意して労働組合を選びましょう。

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