転勤を断ったらクビになる?違法な転勤命令と解雇の確認法

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

転勤断ったらクビ?

2020年10月1日以降の自己都合退職者は、失業手当の給付制限期間が短縮される変更があります。

会社に勤めていると、「大阪の支店に行ってくれ」「海外勤務してみないか」などと、ある日突然転勤を命じられることもあります。

しかし転勤場所が遠すぎたり環境が変わることが多く気が進まない、または入社時に転勤は無いと言われたはずなのに……と、複雑な思いをされている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

実際のところ、転勤命令を断ったことによる解雇は無効と判断される場合もあります。

この記事は、実際に転勤を命じられ受け入れるかお困りの方、また転勤を拒否したところ退職を促されているような方のお悩みにお応えしています。

そもそも会社の転勤命令には従わなくちゃいけない?

まず考えるべきは、「そもそも会社の側に〇〇支店に行け」という転勤命令には従わなければいけないのか、ということです。

基本的には、以下の2つの条件を満たしていなければ、労働者は会社の転勤命令に従う必要は無いと考えられます。

  1. 使用者に転勤命令権限がある
  2. 転勤命令が権利の濫用にあたらない

それぞれ、どのような場合に条件が満たされないのか確認してみましょう。

①会社に転勤命令権限が無い場合とは?

いわゆる勤務地限定社員(エリア限定社員)に対しては、会社は転勤命令を出す権利がありません。

基本的に、会社は労働者との雇用契約に基づいて転勤や職種変更を命じる権利を持っています。
何故ならそのような命令ができなければ、会社の円滑な運営が難しくなるためです。

そして具体的な手段として、会社は就業規則などで「業務の都合に応じて転勤を命令できる」旨を定め、入社時に「就業規則に従う」ことを労働者に確認させています。

一方で入社時に「東京本社にのみ勤務する」など、勤務地を限定したうえで労働するという契約を結んでいる勤務地限定社員に対しては、本人の同意なくして会社は転勤命令を出すことはできません。

そもそも転勤をするということが、雇用契約に含まれないとはっきり示されているためです。

②転勤命令が権利濫用にあたる場合とは?

会社が労働者に転勤を命じる権利を有しているとしても、その権利を濫用することは許されません。

具体的には、以下のような特段の事情をもって転勤を命じる場合は権利濫用にあたると考えられています。

  • 業務上の必要性がない転勤命令
  • 不当な動機、目的に基づく転勤命令
  • 社員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらす転勤命令

まず、労働力の適正配置や業務運営の円滑化などの側面から、転勤について業務上の必要性が無ければなりません。

さらに退職を間接的に促すためであったり、業務命令に従わない社員への嫌がらせのためなど、不当な動機や目的による転勤命令は許されません。

さらに動機や目的が正当なものであったとしても、通勤時間や経済的負担、家族の側にいる必要性などから、転勤を命じることが社員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらすと考えられる場合は、そのような転勤命令は無効です。

具体的には、社員に要介護家族や幼い子供がいるにも関わらず、その言い分を聞かずに一方的に転勤を命じたような場合、家族へのケアや手当が一切無いような場合が該当します。

転勤を断ったあとの流れは?

転勤命令が有効・無効であるにしろ、転勤命令を断ったあとの労働者に対して会社がとりうるアクションとして、まずは再度の説得や条件交渉、その他の人事異動の提案が考えられます。

労働者としては、その内容に納得して転勤を受け入れることも、やはり難しいと断ることもありえます。

転勤を断った場合、何事もなく済む会社もありますが、会社によっては業務命令に違反した、として懲戒解雇や普通解雇を通知してくることがあります。

その場合、転勤命令が無効なものであれば当然それに従わなかったことに基づく解雇も無効です。

一方で転勤命令自体が有効である場合は、解雇に至った理由や経緯などを考慮して、解雇行為が会社の権利濫用として無効となる可能性を考えていきます。

転勤を断ったらクビになる?

転勤を断るということは会社からの業務命令に反するということです。

よって一般的には、会社から解雇(クビ)を命じられる可能性があります。

ですが、その解雇命令も常に有効であるとは限りません。実際に、解雇にあたりどのような要素が考慮されるか見ていきましょう。

転勤を断ったら普通解雇・懲戒解雇がありえる

解雇と一口に言っても、転勤を断ったことによる解雇としては普通解雇懲戒解雇が考えられます。

一般的に普通解雇は様々な事情を解雇事由として行われる解雇、懲戒解雇は就業規則に記載してある懲戒事由に該当する規律違反行為への制裁として行われる解雇を指します。

普通解雇よりも懲戒解雇の方が会社側の条件が厳しく、無効になりやすい解雇であると言えます。

違法な普通解雇・懲戒解雇とは?

会社が解雇を行うにあたっては下記の条件が必要となります(労働契約法16条)。

  • 客観的に見て合理的な解雇理由がある
  • 解雇を行うことが社会通念上相当である

例えば、嫌がらせ目的の解雇などは「客観的に見て合理的な解雇理由」があるとは言えません。

また解雇に至るまでに労働者との話し合いや他の手段の検討がされていなかったり、同じことをした社員は解雇となっていないのに一人だけ解雇、というような場合は「社会通念上相当」とは言えない可能性が高いです。

さらに懲戒解雇としての解雇には、上記に加えて「懲戒することができる」ことが前提となります(労働契約法15条)。

  • 就業規則に懲戒事由が明示されている
  • 就業規則が周知されている

就業規則上の懲戒事由は様々な場面に適用できるように、抽象的な文言で定められている場合が少なくありません。

転勤を断った場合、が懲戒解雇の理由(懲戒事由)に該当するのかも、確認していく必要があります。

転勤を断ったことによるクビが無効になった例

それでは実際に、転勤を断ったことを理由とするクビ(解雇)が無効になった例を見ていきましょう。

クビ無効例①勤務地限定の合意があったと認められた事例

これは、最初応募したのとは異なる事業所に転勤するのをアルバイト社員が拒否したことにより懲戒解雇となったものの、解雇無効と判断された事案です(大阪地判H28.2.25)。

社員はもともと音楽活動に時間を割くためアルバイトの形態を選んでいたこと、面接時にその旨を説明し転勤は困難であると申告していたこと、社員がそれに対し「うちは転勤がない」と答えていたことなどから、社員はいわゆる勤務地限定社員であると認められました。

よって社員が転勤を拒んだことには正当な理由があり、懲戒解雇は無効と判断されました。

明示で「勤務地は〇〇とする」という明文の合意がなくとも、入社時の経緯などから「転勤はしない」という点について会社と労働者の間に合意が認められれば、転勤命令は無効と解される可能性があります。

クビ無効事例②不法な動機・目的による転勤と認めた事例

これは、京都支社から大阪支社への転勤を拒否していた社員が、転勤先を欠勤していることを理由に懲戒解雇となったものの、解雇無効となった事案です(大阪高裁H13.11.29)。

この転勤が降格を伴っていたこと、かつての部下のもとにつくなど屈辱的配置を予定していたこと、労働者の強みを発揮できない業務への転換、優秀な営業成績をおさめていた労働者に根拠のない自宅待機を命じていたなどの要素から、この転勤命令が不当な目的・動機も併せ持っていたと認められました。

よって転勤命令自体が権利濫用にあたり無効であり、その命令に従わず欠勤していた労働者を解雇することも違法・無効と判断されました。

労働者を退職させることが直接の目的でなくとも、様々な経緯からそのような目的を「併せ持っている」と認められる場合であれば、解雇無効になる可能性があります。

クビ無効事例③労働者の不利益が過剰に大きい場合

これは、ある出版社の社員が東京から大阪への転勤を子供の健康状態などを理由に拒否したものの聞き入れられず、転勤命令は無効ではないかと確認した事案です(大阪高裁H14.12.27)。

ここでは、転勤命令が労働者の通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらすと言えるかが争点となりました。

労働者には、共働きであること、子供2名に重度のアトピーがあるため継続的な看護や監視が必要でありそれは仕事を持った親一人で対処するには過酷であること、労働者かその妻どちらかが仕事をやめることでしか不利益を回避できないという事情がありました。

会社は金銭的補償については申し出ていましたが、転勤命令自体については再検討しておらず、そのような姿勢は労働者の子の養育への配慮を求める育児・介護休業法26条にも反していると認定されました。

よって、当該転勤命令は労働者が通常甘受すべき不利益を著しく超えており、無効となりました。

転勤にあたっては、会社から金銭的補償があってもそれだけで十分というわけではなく、転勤を回避する可能性の検討や労働者への真摯な対応が必要となる、と言えます。

クビ無効事例④転勤にあたり十分な情報提供がされなかった事例

これは、営業本部に勤めていた労働者が退職勧奨を断った後に工場への転勤を命じられ、それを拒否したことによる解雇が無効と判断された事例です(東京高判H12.11.29)。

ここでの転勤命令は労働者の通勤時間が従来のおよそ2倍の2時間になるものでしたが、それ自体は労働者が通常甘受すべき不利益の範囲内、と判断されました。

しかしながらその転勤命令を出すにあたって、転勤後の通勤所要時間,経路等、転勤命令に応えるかの判断をするために必要な情報を提供していなかったこと、退職勧奨拒否から一週間足らずで転勤の打診が行われていたなどの事情がありました。

このような事情のもと行われる転勤命令は性急かつ労働者への配慮を欠くとして、その命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇も権利濫用にあたり無効と認定されました。

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執行委員岡野武志

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みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。