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会社に提出した履歴書に卒業していない学校名や学部を記載してしまった、留年をごまかすため卒業年を偽った、本当は中退したのに卒業したと記載してしまった、……。
そのような学歴詐称が会社に発覚してしまった場合、解雇されてしまうのでしょうか?
ですが本当は、学歴詐称だけで解雇されるとは限りません。
実際にあった学歴詐称の事例を検討しながら、「自分の学歴詐称は解雇になるのか?」ということを検討していきましょう。
目次
ひょんなことから学歴を詐称していたことが会社にバレてしまった場合、その後どのようなことが起こるのでしょうか。
学歴詐称が会社にバレてしまうきっかけ、その後の対応について解説していきます。
まず、学歴詐称にあたるのは小中高、大学、大学院、MBAなどの学業上の経歴を、事実と異なる形で表示することです。
よって、以下のような行為はすべて学歴詐称にあたります。
もっとも、単なる書き間違いや軽微な本人の勘違いなど学歴詐称の意図が無かった場合には、解雇は問題となりません。
また、後述しますが実際よりも低く学歴を表示することも学歴詐称にあたるため注意が必要です。
学歴詐称をしていることは、普段の何気ない会話からバレてしまうケースがよく散見されます。
卒業生ならば知っているはずのことを知らなかったり、その学校のある地域に詳しくなかったり、同じ学校を卒業した人と話が合わない、などのパターンです。
また会社外でもSNSでの会話や、個人的な繋がりから学歴詐称がバレてしまうことがあります。
さらに会社から卒業証書や成績証明書の提出の要求をされたときに応えられなかったことで、学歴詐称が発覚するケースもあります。
この時、ごまかそうとして書類を無理に用意するようなことは絶対にやめるべきです。
なぜなら次で述べる通り、卒業証書や成績証明書を偽造する行為は刑法上の犯罪に問われる可能性があるためです。
一般に学歴を詐称したというだけで会社から訴えられたり、刑法上の犯罪となることはありません。
例えば詐欺になるのではないかと心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、給与は肩書の対価ではなく実際に行った労働として支払われている以上、詐欺罪は成立しないのが一般的です。
ですが学歴や、学校を卒業することで得られる資格と給与形態とが不可分一体になっているときは、学歴詐称がなければ雇用も給与支払いもしなかった、と言えるため詐欺罪が成立する余地があります。
また、学位を詐称することは軽犯罪法違反となります(軽犯罪法1条第15号)。
さらに単純に履歴書に虚偽を記載するだけではなく、偽造した卒業証明書を提示したような場合は、私文書偽造・同行使罪(刑法159条、161条)に該当する可能性があるため、注意が必要です。
学歴詐称により解雇となることはありえますが、会社側にいくつかの条件が課せられます。
そもそも学歴詐称で何故解雇が可能かというと、会社に虚偽を申請することが会社との信頼関係を破壊する行為であり、また本来であれば雇用しなかった人物を雇用することが会社内部の職場秩序を乱すことに繋がるためです。
ですが、だからといって会社が好きに労働者を解雇できるわけではありません。
会社が労働者を解雇するには、①客観的に合理的な理由と、②解雇をすることが社会通念上相当であることが必要です(労働契約法16条)。
この2つの条件を満たさない場合、会社の解雇権濫用であるとして解雇は無効となります。
具体的に学歴詐称について、本来の学歴であれば雇用することはなかったとは言えないような場合には、解雇無効が認められやすくなる傾向があります。
実際には解雇無効となるリスクを避けるため、労働者が自主退職するよう促してくる会社も多いようです。
一般に学歴詐称というと、学歴をより高く見せる方向でのごまかしを想像する方が多いかもしれません。
ですが例えば、募集を高卒に限定している求人に応募するため、本当は大学を卒業しているのに高卒だと詐称する場合もあります。
そのような学歴を低く偽る場合であっても、本来であれば雇わない学歴の人間を雇ってしまうなど企業秩序を乱すことはありえますので、解雇されることもあります。
実際に、現場作業員に採用してもらうため短期大学卒業の学歴を隠し、高卒だと詐称したケースについて、その他の経歴詐称の事実があったことも考慮したうえで解雇が認められてしまいました。
学歴詐称による解雇が認められるかは、ケースごとの具体的な事情によって異なってきます。
具体的には、以下のような要素があると解雇は無効と判断されやすくなっています。
どのような事例で解雇が認められ、どのような事例で認められなかったのかを見てみましょう。
これは自動車教習所の指導員が、高校中退であるのを高卒と偽って採用されていたという事案です(浦和地裁H6.11.10)。
この事案では、自動車教習所が公益的役割を持つため高度の技術・知識・人格を求められること、高卒以上が大半の教習生と善良で人間的な信頼関係を保持する必要があることから、学歴も適格性・資質を判断するうえで重要な要素となるとされました。
よって高校中途退学者であることが雇用時に判明していたならば、少なくとも指導員として雇用・職務配置しなかったという会社側の主張が認められ、解雇は有効と判断されました。
これは応募資格を中卒または高卒とする現場作業員として採用されるため、大学中退の学歴を高卒と偽っていた事案です(東京高判S56.11.25)。
つまり、実際の学歴よりも低い学歴を表示していたことになります。
この事案では、応募資格を中卒または高卒としたことについて、同じような学歴の同僚や上司との協調に配慮したものでした。
よってもしも本当の学歴を知っていたのならば、指揮統制が適切に行われるか・単純作業に堪えるかどうかという点に疑問が生じ、不採用としていたであろうと考えられると認定され、解雇は有効と判断されました。
また本人の学歴のほか父の職業や、兄弟の所属する会社や大学も社会的に低く申告しており、その点も含めて重要な経歴の詐称と判断されました。
これは運送会社の労働者が、特定の大学卒業でないのに卒業したと表示していたとして解雇された、という事案です(名古屋地判H5.5.20)。
ですが会社の出した求人カードには「高卒以上」としか記載がなかったことなどから、大学を卒業しているという学歴は採用決定の重要な要素とは言えず、業務遂行に重大な障害を与えたとも認められないと認定されました。
よってこの事案の学歴詐称は、解雇事由に該当するほどの重大なものではなく、解雇も無効と判断されました。
同様に中卒であるのに高卒と詐称していた事案について、会社がその後中卒者の採用も行っていることから、学歴詐称したことは解雇事由にあたらないとした判例があります(大阪地判H6.9.16、解雇は有効と判断)。
これは船内作業を行う会社の労働者が、大学中退の事実を秘匿して高卒とだけ表示していたことが学歴詐称として解雇された、という事案です(名古屋地判S55.8.6)。
まず、最終学歴は労働者の資質や能力を判断するための重要な要素であり、大学中退であることを隠していたことは重要な経歴詐称にあたり、解雇事由に十分あたるとされました。
一方で、求人には「学歴不問」と記載されていたこと、面接で学歴に関する説明がなかったこと、仕事内容が肉体労働であり学歴はさほど重要視されないこと、詐称の度合いが小さいこと、同じ現場に大学在学経験者もいること、それにより現場に支障が生じたこともない、という事実も認定されました。
よって、労働者の学歴詐称を理由とする解雇は会社の解雇権濫用であると認められ、解雇無効の判断が下されました。
これは美術品保護財団の学芸員が、大学卒業年や資格取得の年が事実と異なっていたこと・夜間部であることを記載していなかったことが学歴詐称にあたるとして解雇されてしまった、という事案です(東京地判H15.5.30)。
この事案ではその学芸員が社員として採用される前にはアルバイトとして財団に勤めていたという事実がありました。
よって財団は正しい卒業年も夜間学生であることも把握しており、学芸員もそのような状況で学歴詐称をすることは考えづらく、解雇事由にあたるような学歴詐称はなかったとして解雇は無効と判断されました。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。