入院して会社からクビにされるケース・されないケース|入院時の手当・保険も解説

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

入院して会社クビ|手当て・保険は?

2020年10月1日以降の自己都合退職者は、失業手当の給付制限期間が短縮される変更があります。

病気やケガで入院したら会社からクビにされてしまうのか?

業務中に病気やケガを負って入院したり、私傷病で入院してしまうことがあります。

そのような場合でも、入院して就業できなかったことを理由にいきなり解雇されるようなことは基本的にありません。

これから入院と解雇の関係性や、入院中に受給できる手当・保険などについて解説していきます。
最後までしっかりと目を通し、入院したせいで働けなくなった際の対処法を身に着け、解雇トラブルや金銭トラブルに適切に対応できるようになりましょう。

入院したら会社からクビにされるのか

業務上の傷病で入院しても原則的にはクビにされない

ケガや病気の原因が業務にある場合入院して就労できなかったとしても労働者が使用者からクビ(解雇)にされることはまずありません(労働基準法19条1項)。

また、労働者が業務上負傷するか疾病にかかった場合、使用者から療養補償を受け取ることができます(労働基準法75条)。

療養の範囲は以下の6点です(労働基準法施行規則36条)。

  • 診察
  • 薬剤又は治療材料の支給
  • 処置、手術その他の治療
  • 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
  • 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
  • 移送

なお、「療養の費用」には入院、転地に伴う食費の増加等も含む趣旨であり特に贅沢療養と認められる費用以外はなるべく広く含むよう通達が出されています(昭和22年9月13日 発基第17号)。

療養補償に加えて、労働者は療養中に休業(補償)給付として平均賃金の6割を使用者から受け取ることができます(労働基準法76条1項)。

ただ、労災保険から休業(補償)給付が支給される場合、平均賃金の6割を支払う責任を使用者に負わせることはできません。

しかし、労災保険からは休業初日から3日前までの休業(補償)給付を受け取ることができないため、その3日分の補償のみ企業に支払ってもらうことになります。

業務上の傷病でもクビにされるケース

治療開始から3年が経過しても労働者の傷病が治癒しない場合、平均賃金の1200日分が支払われれば解雇が可能となる(労働基準法19条1項ただし書き)上に、それ以降の療養補償を企業から受け取ることもできなくなります(労働基準法81条)。

また、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」における解雇も違法ではありません。

厚生労働省の通達では、以下のような場合が「やむを得ない事由」に該当する・該当しないと定められています(昭和63年3月14日基発150号)。

「やむを得ない事由」に該当する例

  1. 事業場が火災により焼失した場合。ただし、事業主の故意又は重大な過失に基づく場合を除く。
  2. 震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった場合。

「やむを得ない事由」に該当しない例

  1. 事業主が経済法令違反のため強制収容され、又は購入した諸機械、資材等を没収された場合。
  2. 税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合。
  3. 事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥った場合。個人企業で別途に個人財産を有するか否かは本条の認定には直接関係がない。
  4. 従来の取引事業場が休業状態となり、発注品がなく、そのために事業が金融難に陥った場合。

私傷病で入院しても通常はただちにクビにはされない

なお、業務上の傷病ではなく私傷病入院した場合、傷病の程度によっては「労働者が労務提供をできなくなったため」という理由で普通解雇される可能性があります。
通常、会社の就業規則では「心身の故障のため、職務の遂行の耐えない場合」などが普通解雇事由として定められています。

ただ、多くの企業では私傷病休職制度が設けられているため、通常は解雇される前にこの制度を利用して療養による回復を図ることになります。

しかし、休職期間中に業務遂行能力が回復しない場合には、上述した通り解雇を検討される可能性があります。

とはいえ、職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結していた労働者が私傷病により休職し、休職期間満了時点で通常業務に復帰できる状態まで回復できなかったとしても、実務上、ただちに解雇されるようなことは基本的にありません。

過去の裁判例上(『片山組事件』最一小判平10.4.9)、当該労働者が従前の業務よりも軽易な業務に就くことなら可能で、かつ当該労働者自身がそのような業務での復職を希望しているのであれば、使用者は当該労働者を配置可能な業務に就かせるかどうか検討する義務があるとされています。

そのため、私傷病で入院して障害が残ったとしても、植物状態や四肢麻痺で業務を一切遂行することができないといったケースではない限り解雇されることは基本的に無いと考えていいでしょう。

うつ病などの精神疾患でも業務上の疾病になりうる

業務上の疾病とみなされる3つの認定要件

業務中の怪我や病気だけではなく、職場環境が原因のうつ病や自律神経失調症なども業務上の疾病と認められる可能性があります。

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日基発1226第1号)」によると、以下の認定要件を満たすと業務上の疾病として取り扱うと定められています。

  1. 対象疾病を発病していること。
  2. 対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
  3. 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

「強い心理的負荷」の具体例を紹介

「強い心理的負荷」についてですが、「強」の負荷がかかったとみなされる行為には以下のようなものがあります。

  • 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にも当たった
  • 仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(倍以上に増加し、1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり、その後の業務に多大な労力を費した(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態となった等を含む)
  • 退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職を求められた
  • 部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
  • 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、継続して行われた場合

ただ、上記はあくまでも一例ですし、労働者の職種、立場、職責、年齢、経験等によって同じ出来事でも個々人で感じる負荷の程度は異なります。

そのため、「自分と同じような境遇の人が近くにいるけれど、その人は平気そうだから耐えないと」と我慢するようなことはせず、精神・心に不調を感じた際は産業医やメンタルクリニックに相談することをおすすめします。

妊娠・出産で入院したらクビにされるのか

妊娠・出産で入院しただけでクビにされるのは違法

女性労働者が妊娠・出産のために入院したことだけを理由にクビにされることはありません。

なぜならば、以下の男女雇用機会均等法9条3項で「妊娠・出産を理由とした解雇をしてはならない」と定められているからです。

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項 若しくは同条第二項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)9条3項

そのため、使用者から「妊娠・出産で入院して勤務できていなかったため、解雇します」と言われたとしても素直に応じる必要はありません。

もしも妊娠・出産を理由に解雇を宣告されてしまったら、最寄りの都道府県労働局雇用環境・均等部(室)か弁護士などに相談すれば解決策を提示してくれるでしょう。

産前産後休暇中およびその後30日間は解雇されない

女性労働者は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、使用者に請求すれば産前休暇を取得できます(労働基準法65条1項)。

加えて、出産の翌日から8週間は産後休暇を強制的に付与されます。
ただし、産後6週間経過後に本人が就労の再開を請求し、医師から許可を受けた場合に限り、業務に戻ることが可能です(労働基準法65条2項)。

この産前産後休暇中およびその後30日間に解雇されることはありません(労働基準法19条1項)。
もしも産前産後休暇が認められなかったり、上記期間中に解雇されたりした場合、使用者には6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条)。

入院して就労できないときの手当・保険

(1)休業(補償)給付・休業特別支給金

休業(補償)給付とは労災保険給付の一種で、業務または通勤による傷病のため働くことができなくなった労働者に対して支払われる補償のことです。

業務災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき」という支給事由に該当する際、休業(補償)給付は支払われます(厚生労働省『各労災保険給付の支給事由と内容について教えてください。』)。

休業(補償)給付は休業4日目から給付基礎日額の60%相当額が支払われます。

給付基礎日額

事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3ヶ月間に当該労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った1日あたりの賃金額のこと

また、業務災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき、休業4日目から休業特別支給金も受け取ることができます。

休業特別支給金の金額は給付基礎日額の20%相当額です。

そのため、休業に対する補償として休業(補償)給付と休業特別支給金が支払われることにより、実質的には80%の補償がなされることになります。

なお、療養開始から1年6ヶ月経過した段階で症状の程度が傷病等級1級から3級に該当する場合、休業(補償)給付から傷病補償年金に切り替わって支給されます。
傷病等級に該当しておらず、かつ、ケガや病気がまだ治っていない場合、休業(補償)給付がそのまま支給され続けます。

また、労災保険の給付の申請ができるのは本人かその遺族です。
実務上、本人勤務先の事業主が手続きを代行することがありますが、事業主が手続きを行わない場合はご自分で申請することになります。

(2)傷病手当

傷病手当とは健康保険から給付される手当のことで、私傷病で働くことができなくなった被保険者に対して保険金の支給がなされます。

傷病手当は「連続する3日間」の待機後、4日目以降の就労できなかった日に対して支給されます。

もしも傷病を負った後に就労していたとしても、給与の一部のみ支給されている場合は、傷病手当から給与支給分を差し引かれて支給されます。

傷病手当の支給額は以下の計算式で算出されます。

傷病手当の計算式

1日当たりの金額=支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3)

支給開始日の以前の期間が12ヶ月に満たない場合は、次のいずれか低い額を使用して計算します。
支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
標準報酬月額の平均額
(標準報酬月額は給与額に基づき50等級の区分で分けられます。
 詳しくは全国健康保険協会の『標準報酬月額・標準賞与額とは?』をご覧ください)

なお、傷病手当は支給開始日から最長1年6ヶ月間受け取ることが可能です。
ただし、1年6ヶ月の間に復職し受給していない期間があったとしても、受給開始日から1年6ヶ月後に受給期間が満了してしまう点にご注意ください。

また、傷病手当を申請する際は給与の支払い有無について事業主の証明が必要となります。
そのため、1ヶ月単位の給与締め日ごとに申請することをおすすめします。

(3)民間保険会社の所得補償保険

民間保険会社の所得補償保険に加入している場合、私傷病で働くことができなくなった際、民間保険会社から保険金を支給してもらうことができます。

所得補償保険から保険金を受け取っても、健康保険の傷病手当減額されることなく支給されます。
そのため、傷病手当から標準報酬月額の2/3を受け取りつつ、残りの1/3を所得補償保険で補うことが可能です。

また、給与所得者(サラリーマン)だけではなく個人事業主も所得補償保険に加入できます。

個人事業主は傷病手当の支給対象外なので、傷病で休業した際の減収をカバーしたい方は所得補償保険への加入をご検討してみてはいかがでしょうか。

(4)障害年金

傷病を負った際に四肢に麻痺が残った、視力が低下した、などの障害が残ることがあります。

その場合、日本年金機構に障害年金の請求を行うことになります。
機構から障害認定を受けると、障害年金が支給されるようになります。

障害年金の請求は障害認定日を迎えた後から始めます。

障害認定日

障害の原因となった病気やケガの初診日から起算して1年6ヶ月を経過した日、または1年6ヶ月以内にその病気やケガが治った場合(症状固定した場合)はその日のことを指す。

請求後、3ヶ月程度で障害等級の審査結果が通知されます。

障害等級が認定されれば、認定後から障害年金の受給が始まります。

障害年金を請求できる要件、準備書類、手続きの流れなどは日本年金機構の公式サイトで詳細に解説されているため、気になる方はぜひご参考になさってください。

監修者


みんなのユニオン

執行委員岡野武志

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みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。