不当解雇・退職勧奨の
お悩みお聞かせください
※伺った事情をもとに、ショートメールメッセージ(SMS)か電話にて専門員が返答いたします
※ユニオンとしてご対応が難しいものでも、適切な相談先をお伝えしますので、まずはご連絡ください
労働者として会社で働いていると、ある日「グループ会社に移ってくれ」と言われるようなことがあります。
そのような人事異動のことを、出向または転籍と呼びます。
出向・転籍は会社を移動する関係上、どちらの会社に基づく取り扱いを受けるのかなど、トラブルが起こりがちです。
この記事は、出向・転籍を実際に命じられた方、出向先でトラブルにみまわれている方、出向や転籍を拒否したいとお考えの方に向けて書かれています。
出向とは「在籍出向」のことであり、元の会社との労働契約を残したまま、新たな会社で業務に従事することを言います。
また、通常は出向期間が終わった場合は元の会社に戻ることを前提としています。
労働者は元の会社・出向先の会社とそれぞれ労働契約を結び、出向先の会社の指揮命令下に置かれるのが通常です。
会社はいわゆる人事権の一環として、労働者に出向を命じることができます。
出向について、労働者が同意をしたのならば、もちろん使用者の出向命令は有効です。
しかし労働者が同意しないような場合でも、会社の出向命令に対し従わなければならないのかが問題となります。
その場合、前提として就業規則に労働者を出向させることがある旨を規定しており、さらに出向の必要性と労働者に生じる不利益を比較考慮して、出向命令を出すことが合理的と考えられる場合には、出向命令は有効となり、労働者はその命令に従わなければなりません。
具体的には、いずれかの要件が欠けるような場合には、出向命令を出すことが合理的とは認められません。
就業規則上の規定があり、合理的と認められる出向命令であっても、例えば労働時間が延びたり休日が減ったりするような場合でも従わなければならないのでしょうか。
判例では、労働時間が30分延長された例については出向命令を有効とし、一方で月あたり4日間の所定休日の差があった例については出向命令を無効としました。
よって、ある程度の労働条件の変更は許されるものの、労働条件が著しく過酷になったような場合には出向命令が違法・無効となる可能性があります。
実際に労働条件の変更が許されるかは、出向先の職種や業務内容、労働時間、休日以外の他の労働条件、地域性や賃金、物価水準や生活の状況、出向手当などの措置の有無などから考慮されます。
出向の対象者は合理性のある基準で選ばれなければなりません。
具体的には、各人の保有する知識・技能・経験・年齢等の客観的な基準に基づいて行われることが必要です。
上記の要素に加えて、労働者の家庭の事情や、出向よりも配置転換の方が適切ではないかなどが考慮されることもあります。
出向した先から、さらに別の会社に出向を命じられることを再出向と呼びます。
出向の場合は出向先とも労働契約があることから派遣契約とは異なるため、法律で禁止されているいわゆる二重派遣にはあたらないとされています(職業安定法44条)。
よって、出向先から再出向を命じられることも十分に考えられます。
なお出向先が出向労働者に対して再出向を命ずる権限があるかどうかを、元の会社に対して確認するとより安心です。
出向期間が満了すると、出向は自動的に終了して労働者は出向元へ復帰することになります。
したがって、出向元は出向期間が満了した場合に、一方的に出向期間を延長することは許されず、延長する場合には出向労働者の同意を得る必要があります。
なお、出向規程や就業規則に出向期間を延長する旨の規定があった場合には、業務上の必要性があり、合理的な定めの範囲で出向期間が延長されることがあります。
このとき、遠隔地への単身赴任など出向労働者の不利益が大きい場合には、出向期間延長の合理性や必要性はより厳しく判断されます。
出向元から、突然「元の会社に戻ってくるように」という復帰命令が出た場合、原則として労働者はそれを拒むことはできません。
なぜなら、労働者と出向元の間に依然として雇用関係が存在しているため、労働者は出向元の出す業務命令(復帰命令)には従う必要があるためです。
この復帰命令は出向前の労働関係に戻る、という内容のものであるため、基本的には労働者側が同意しなくともその命令は有効です。
なお特段の事由がある場合、具体的には出向先でずっと働くという合意(転籍)があった場合や、一定期間研究・実験するという約定があった場合には、労働者の合意なく出向元に復帰させる行為は無効になりえます。
また、出向期間がもともと決まっていた場合、出向期間が満了すれば当然に出向元へ復帰することになります(民法135条2項参照)。
この時の復帰命令も、上記命令の際と同様に拒むことはできません。
出向して働いている場合、出向先と出向元の間で労働条件などに差が生じる場合があります。
そのようなとき、労働者としてはどちらに従えばいいのか混乱してしまうこともあります。
出向労働者がどちらの企業に従って取り扱われるか原則と例外を知り、柔軟に対応できるようにしましょう。
原則として、出向労働者の労働条件(主にどちらの就業規則に服するか)については出向元と出向先との三者間での合意によって決定されます。
もしも出向元と出向先の労働条件が異なる場合には、出向元・出向先との間で協議した上で決定されるのが一般的です。
もしもそのような協議がなされていなかった場合、労務提供に関連する事項については、出向先の就業規則が適用されます。
なぜなら出向労働者は、出向先ではその労務管理・指揮命令に従って、現実の労務提供をするためです。
一方、労働者の労務提供を前提としない基本的な労働契約の事項については、出向元の就業規則が適用されます。
具体的には、始業・終業時刻、労働時間、時間外労働、服務規律など労務提供に関する事項には出向先の就業規則が適用され、賃金関係、退職関係などには出向元の就業規則が適用されます。
休職関係については、労務提供免除という面と休職期間満了による退職という両面があるため、どちらの就業規則も適用される可能性があります。
現在出向しており、休職する可能性がある場合は両企業に確認をとるとよいでしょう。
出向先で長期の無断欠勤をした、会社の備品を窃盗した…など、懲戒事由にあたりうる行為をした場合、どのような処理がなされるのでしょうか。
懲戒に関する就業規則の適用は労務の提供に関するものなので、原則として出向先の就業規則が適用されます。
ただし、出向先は一般に出向労働者を解雇する権限を有していないので、懲戒解雇等の解雇権限は出向元の就業規則が適用され、実際に解雇を行うとすれば出向元となります。
もしも出向先に出向労働者に対する懲戒権がある、と定められている場合、出向先が選択できる懲戒処分の種類は論旨解雇、懲戒解雇以外のものに限られます。
したがって、出向先で出向労働者が懲戒処分の対象となるような行為をした場合、一般的な流れとしては出向契約が解除され労働者は出向元に復帰し、そこで懲戒解雇等の決定を待つことになります。
もっとも、出向労働者が行った出向先での非違行為は、出向元の企業秩序への侵害としては間接的なものなので、出向元による懲戒権の行使は慎重に行われなければなりません。
多くの場合、出向しても労働者に残っている年次有給休暇の日数は残存し、勤務期間は通算で算定されます。
出向においては出向元と出向労働者との雇用契約をさせたまま、労務遂行の指揮命令権が出向先に一部譲渡されるもの、と考えられています。
それに伴い、労働者に対して年休を付与するという義務も、出向先が引き継ぐ契約内容であると言えます。
したがって、労働者は出向元で付与された年休を出向先でも利用することができ、また勤務期間は通算で導かれます。
賃金が出向元・出向先のどちらから支払われているかを問わず、出向労働者が出向先の指揮監督を受けて労働に従事している以上、出向先事業場の労働者として労災保険関係が成立します。
したがって出向労働者は、出向先の労災保険の適用を受けることになります。
出向労働者に対して、安全配慮義務を負担するのは出向先・出向元どちらなのかが問題となります。
安全配慮義務とは、労働者の生命・身体等を危険から保護するように配慮する義務のことを指します。
出向労働関係においては、現実に出向労働者に対して指揮命令を行っているのは出向先ですので、出向先は出向労働者に対して確実に安全配慮義務を負うことになります。
一方で出向元も、出向労働者の勤務状況等を把握し得る立場にある場合には、安全配慮義務違反の責任を追及できることもあります。
転籍とは「転籍出向」のことであり、元の会社との労働契約を終了して、新たな会社と労働契約を結んで業務に従事することを言います。
出向とは、いわゆる出向元との労働関係が無くなる点で違いがあります。
転籍した場合、転籍元の会社との労働契約関係は終了するため、労働条件は当然に転籍先のものが適用されます。
よって労働時間・休日・休暇・賃金、退職など、すべての労働条件は転籍先で決定されます。
そのことにより従前と比べ不利な労働条件に陥ることも考えられますが、それは労働条件が変わったことによる当然の効果であり、労働者はその是正や差額の賠償を求めることはできません。
なお、そのような格差を緩和するため、転籍の場合は退職金などが支払われることが一般的です。
一般に、転籍者が転籍元との労働契約を終了することについては、転籍先で採用されることが条件となっています。
そうすると、転籍者が転籍先から採用を拒否された場合、転籍元退職のための条件が満たされなかったことになりますから、退職の意思表示の効力は発生しません(民法127条1項参照)。
したがって、転籍者が転籍先から採用を拒否された場合には、転籍者は依然として転籍元との労働契約が存続していることになります。
また仮に採用されたとしても、その後に解雇されるなど、転籍先との労働契約が解消された場合はどうでしょう。
転籍により、転籍者と転籍元との間の雇用契約関係は終了しているので、転籍先から転籍者が解雇されたからといって、特段の事情のない限り、雇用関係は復活しません。
ただし例外として、実質的には転籍先は転籍元の一事業部門に過ぎないような特段の事情がある場合には、法人格否認の法理の適用により、転籍者の雇用契約関係は転籍元で継続すると考えられます。
一般に、転籍は転籍元の退職という重大な効果を生じさせます。
よって、入社時に「転籍を命じることがある」という包括的な同意があったとしても、労働者の個別具体的な同意をとることが必要です。
また転籍命令に従わなかった場合、会社から整理解雇のかたちで解雇を命じられる場合があります。
会社が労働者を一方的に解雇するには客観的に見て合理的な理由が必要であり、整理解雇の場合は以下の要素すべてを満たさなければなりません。
これらいずれかの要件を欠くような解雇であった場合、その解雇は違法・無効となり労働者は会社に対して損害賠償請求をすることが可能です。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。