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メンタルヘルスとは、精神面における健康のことを指します。
業務上のストレスや、あるいはその他の事情でメンタルヘルスに不調をきたしてしまうことは誰にでも起こりえます。
そのような場合、会社に適切な対応を求めたり、不適切な対応に対して責任を追及することが考えられます。
この記事は、現在メンタルヘルスに関する診断を受けている方、それを理由に求職中の方、会社の対応にご不満をお持ちの方に向けて書かれています。
かつてうつ病と診断された、現在も薬を服用している…そんなメンタルヘルスに関するプライベートな事柄は、あまり聞かれたくないものかもしれません。
そのようなことを問う質問に正直に答えなければいけないのか、かんがえてみましょう。
会社には誰をどのような理由で採用するか、法律などに反しない限り自由に決定することができます。
精神障害は、その内容が多岐にわたり、症状によっては予定する労務遂行が困難となり、また自傷他害や職場秩序を乱すなど、業務遂行にさまざまな影響が出る可能性があることは否定できません。
また、精神障害歴の有無や精神障害の治療中であるか否かの調査は、労働能力や適格性等の判断に影響する事項なので、採用選考時にこれらの事項について調査する必要性があり、調査することが不合理とはいえません。
よって採用選考時に精神障害歴を尋ねたり、それを採否の判断要素としたり、精神障害の治療中であることを理由として採用を拒否したとしても、それだけで違法とはなりません。
なお、労働者が合意していないのに回答を強制しようとしたり、精神障害歴に対して侮蔑的な発言をしたりした場合は、違法となる可能性があります。
精神障害歴を隠すことも、経歴詐称にあたりうるため、懲戒解雇事由となる可能性があります。
懲戒解雇が認められうる経歴詐称とは採用選考時の履歴書に書く学歴、職歴など重要な経歴のことを指します。
精神障害歴は、職務への適格性や職務遂行能力、職場で問題なく過ごすことが出来るかについて、採用判断に大きな影響を及ぼす重要な経歴であると言えます。
ですがすべての精神障害歴が重要な経歴と言えるわけではありません。
労働力評価や適正配置を誤らせるような重大な疾病であって、そのような精神障害を知っていたならば採用しなかったであろうといえるような重要な経歴の詐称でなければ、解雇は違法となります。
業務上必要とされる理由によって、労働者自身の精神障害や精神疾患について情報を開示しなければいけない場合があります。
原則として、個々の労働者の健康情報は個人のプライバシーに関するものなので、他人に情報を開示させるか否かについては本人が決定します。
ですが労働者の労務提供の義務に付随するかたちで、健康情報についての情報を開示することが業務遂行に必要であるならば、労働者の義務となりえる可能性があります。
例えば、税額・社会保険の算定を行いあるいは福利厚生の履行などに必要な場合や、労働者の疾病を理由に配置を考慮する場合には、労働者は健康情報の開示を請求されたら答える必要があります。
また、会社が労働者の主治医に対して情報開示を求める場合は、労働者本人の同意が必要です。
その場合は、同意をしないことで情報開示を拒むことができます。
会社が労働者のメンタルヘルス不調に対して、専門家のカウンセリングや専門医による診断と治療を受けることを勧めることがあります。
この場合、就業規則もしくは労働者が負うべき信義則上の義務を根拠に、会社に合理的な理由があれば、メンタルヘルス不調の労働者に対して健康回復措置として、受診命令がなされる場合があります。
もしも実際に医師の受診を受けることが合理的で相当な方法である場合には、労働者には受診命令に応じる信義則上の義務があるといえます。
メンタルヘルスの不調で労務の提供が難しくなったような場合、会社の休職制度を利用して回復を待つことがあります。
休職時、または休職から復帰した時に、会社側の対応に不満がある時はどうすればよいでしょうか?
メンタルヘルスの不調による休職としては、通常は傷病休職の制度が用いられます。
傷病休職は通常、休職期間中にその傷病が治癒すれば復職となります。
ですが休職期間が満了しても治癒しなければ、就業規則の規定に従って退職または解雇となることが多くなっています。
よって傷病休職においては、休職中の社員の傷病が実際に治癒しているかどうかにより復職できるかどうかが決定します。
メンタルヘルス不調が「治癒」したと言えるかどうかは、労働者の職種・職務を限定した事案においては、従前の業務を通常の程度に行える健康状態に復したときを指します。
一方で職種・職務内容を特定していない事案においては、従前の業務をまだ行えない健康状態であっても、能力に応じた職務を分担する工夫次第で、現実に復職可能な勤務場所があり、本人が復職の意思を表明している場合、またはある程度の期間をおけば完全に復職可能な場合には、復職が認められるべきです。
もっとも精神的疾患の場合に、本人の申請のみで復職の判断するのは実際には難しいことです。
よって最終的には本人の健康状態が治癒したかどうか、主治医の診断書のほか、社員や主治医との面接や産業医からの意見聴取を行って決定します。
労働者の職種・職務内容が特定されていない場合には、復職の判断に当たって、他の軽易な業務への現実的な配置可能性を踏まえて判断する必要があります。
なお、ここでの配置可能性とは、他の同種の労働者が従事している業務を遂行することができるか否かであり、単に軽作業ならできるというだけでは足りません。
よってメンタルヘルス不調により休職中の者から、「軽易作業であれば復職可」という医師の診断書を添えて復職の申し出がなされたような場合、原職務の遂行の可否だけで判断すべきではありません。
もしも他に配転可能な職務や軽作業があり、本人の能力や健康状態からその遂行が可能であるならば、軽作業へ転換してもらう要求も認められるべきです。
就業規則にメンタルヘルス不調に基づく休職の規定があれば、休職命令に従わなければいけない場合があります。
就業規則に「精神の疾患により職務に堪えないとき」や「業務上の必要性に基づいて休職を命じることがある」というような規定がある場合は、欠勤の程度、業務運営の都合、本人の受診に対する協力の姿勢などを総合勘案し、休職の命令が出されても違法ではありません。
これに対して、就業規則に上記のような規定がないような場合に、無理やり労働者を休ませたり欠勤扱いとすることは違法となる場合もあります。
怪我での休職と異なり、メンタルヘルスについては好調な日も不調な日もあるのが普通です。
もし調子がよく出社できそうな場合や、休職中であっても出社したいと思うような場合、出社してもよいのでしょうか。
この点、出社を考えている場合はまず会社に相談をするべきと言えます。
なぜなら休職命令を無視する行為は業務命令違反にあたり、職場秩序を乱すと考えられた場合、懲戒処分の対象にもなりえるためです。
また、通常通り職務が遂行できる状態であっても、それが継続するとは限らないことなどから、ご自身の自覚症状だけで休職・出社を決定するのは避けるべきです。
職務への復帰を希望する際は、主治医や会社、家族と話し合いながら、合意のうえで決定ができるとよいでしょう。
復職者の賃金については、就業規則に定めがあればその定めに従います。
逆に特に定めがない場合には、原則として休職前の賃金をそのまま復職後の賃金とすべきだと考えられます。
このとき、昇給などの規定についても就業規則があればその定めに従い、定めがない場合は他の労働者と同じく昇給などが行われることになります。
問題となるのは、復職者が従前よりも軽い業務についた場合に賃金が当然に引き下げられるかどうかです。
賃金は、雇用契約の本質的部分であり、労働者の同意なく一方的に減額することはできません。
もしも職種・職務によって賃金が決定される職務給制度が採られている場合には、軽減された職務に見合った賃金が支払われることになります。
一方でそのような制度が採用されていなければ、同意なく一方的に賃金を引き下げられる行為は違法となります。
メンタルヘルス不調による休職から復職した際、休職前に就いていた役職や資格に求められるパフォーマンスを発揮できないとして、降格されてしまうことがあるのでしょうか。
一般的に降格をするかどうかは使用者の人事権の行使であり、人事権の濫用とならない範囲であれば、会社が自由に決定することができます。
人事権の濫用となる場合とは、降格に伴う本人の不利益が著しい場合・業務遂行能力の低下の程度が軽微又は一過性のものと考えられる場合・その企業における同様の役職者の能力の程度や過去の降格事例などからして、当該労働者を降格させることが著しくバランスを失するという事情がある場合などを指し、そのときの降格は違法となります。
もっとも、特定の役職に就けることを約束して雇用した場合には、それが労働契約の内容となっており、その内容である役職を一方的に変更することはできません。
さらに、職能資格制度上の資格を降格させられることは人事権の範囲とは言えないため、労働者本人の同意か、就業規則での定めと相当の理由が必要となります。
メンタルヘルス不調による休職から復職した際、ご自身の希望しない配置転換が言い渡されたような場合、従わなければいけないのでしょうか。
多くの場合、就業規則において使用者の配転命令権が規定されており、会社はこの規定を根拠として、労働者に対して配転を命ずることができます。
ですが業務上の必要性がない場合、または、業務上の必要性があっても不当な動機・目的をもってなされたものである場合、労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときは、そのような配転命令は違法・無効となります。
労働者本人の疾病も権利濫用の成否に関する判断材料の一つとなります。
よって、労働者の病態や原職における業務の内容・量等からみて労働者の心身への負荷が大きい場合や、うまく適応できていないなどの状況が認められるなど、業務上の必要性があり目的が合理的であれば、配置転換命令は会社側の適切な措置として有効となります。
なお、労働者が配転に同意しないことを理由に会社が不適切な業務を行わせることは、安全配慮義務違反にあたる可能性があります。
労働者がメンタルヘルスに不調をきたす原因として、しばしば業務上でのストレスが挙げられます。
会社でのストレスを理由に精神疾患に罹患したような場合、会社に責任追及することはできるのでしょうか。
会社の業務が原因となってうつ病など精神疾患に罹患したといえる場合、労働者は会社に対し損害賠償請求をすることができます。
ただし、うつ病等の精神障害が発症した場合、その原因が業務にあるといえるのかの判断は簡単ではありません。
実際に業務により精神疾患に罹患したと言うためには、以下の条件が必要となります。
*国際疾病分類第10回修正第Ⅴ章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害
メンタルヘルス不調を理由とする解雇・雇い止めは違法であるとして、会社に対し損害賠償請求できる可能性があります。
多くの会社は解雇の理由として「心身の故障のため職務に堪えないとき」と定められているため、一見してメンタルヘルス上の問題があれば解雇するのも自由なのかと思えます。
ですが実際、解雇にするにあたっては客観的に見て合理的な理由があるか、解雇までするのが相当かを考慮する必要があります(労働契約法16条)。
よってメンタルヘルス不調についてはまず欠勤・休職の扱いをし、治療について使用者が配慮をしたうえで、解雇がやむを得ないと考えられる場合でなければ、違法な解雇となります。
また雇止めとは、期間を定めた雇用契約において、契約期間満了を理由として雇用契約を終了させることをいいます。
期間の定めのある雇用契約であっても、長期間にわたり反復更新されているなど雇用継続に合理的な期待が抱けるような場合には、雇止めにも解雇の時と同様に雇止めの合理的な理由が必要となります。
なお長時間労働など、うつ病発症の原因が業務に起因するものと認められる場合には、労働基準法19条により解雇・雇止めは制限されると考えられます。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。