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会社の使用者は、労働契約上当然に労働者を危険から保護するよう配慮するという安全配慮義務を負っています。
第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法第5条
会社が安全配慮義務に違反した場合は、労働契約上求められる義務を履行しなかったとして、民法上の損害賠償請求をすることができます。
その安全配慮義務違反の内容、その範囲はどのようなものでしょうか。
この記事は会社の安全配慮義務違反を疑っていらっしゃる方、会社の管理体制に疑問を持っていらっしゃる方に向けて書かれています。
安全配慮義務の内容は、労働者の職種・地位・労務内容・労務提供場所など安全配慮義務が必要となる具体的状況によって異なります。
例えば、自動車を用いた業務では車両の十分な整備、十分な運転技能を要する者の選任、車両を運転するうえで必要な安全上の注意を与えることなどが安全配慮義務の内容となります。
ここでは具体的なシチュエーションを想定して、会社に安全配慮義務があるかどうかを考えていきます。
パワーハラスメント(パワハラ)とは、①職場の優越的な関係に基づき、②業務の適正な範囲を超えて、③身体的もしくは精神的な苦痛を与えたり、労働者の就業環境を害するものを指します。
パワハラやいじめは職場生活の中で労働者の労働能力を低下させ、企業活動にも悪影響を与えます。
そして会社には、職場環境について労働者の健康を害さないよう、また、人格的な尊厳を傷つけ労務提供に支障を生じないよう適切に保つ安全注意義務があります。
よって会社がパワハラやいじめを認識し、または認識可能であるにもかかわらず、これを防止する措置をとらないときは、使用者は安全配慮義務違反あるいは不法行為責任を負うことになります。
会社が労働者に長時間労働や過重労働を課している場合、どのような安全配慮義務が求められるのでしょうか。
長時間労働や過重労働は疲労の蓄積をもたらす最大の要因と考えられ、さらに、脳・心臓疾患の発症の関連性が強いという医学的知見も得られています。
よって、会社に対しては通常よりも強い安全配慮義務が求められると言えます。
具体的には、以下のような措置を講じることが求められます。
受動喫煙とは、本人は喫煙しなくても身の回りのたばこの煙を吸わされてしまうことを指します。
社内で他の社員が煙草を吸っており、受動喫煙してしまう職場環境となっているような場合、会社に安全配慮義務違反は認められるのでしょうか。
令和元年に出された「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン(令和元年7月1日基発0701第1号)」においては、会社のとるべき対策として以下のようなものが挙げられています。
使用者がこのようなガイドラインに沿った対策を講じている場合には、安全配慮義務を尽くしていると考えられます。
ただし、一般的な分煙対策がとられていても、労働者が受動喫煙下での健康障害を避ける必要がある旨の医師の診断書を提出して個別的な措置を求めた場合、健康障害の増悪を避けるため何らかの対応をとることも安全配慮義務となります。
長時間労働を行うと、脳や心臓の疾患が発症する可能性を高めると言われています。
そこで、時間外・休日労働時間が月100時間を超えて疲労の蓄積が認められる者に対しては、医師による面接指導を行うことが会社の義務となっています(労働安全衛生法66条の8第1項、労働安全衛生法施行規則52条の2)。
また、時間外・休日労働時間が月80時間を超えて疲労の蓄積が認められる従業員、健康上の不安を有している従業員、事業場で定めている基準に該当する従業員に対しては、面接指導またはそれに準ずる措置の実施が会社の努力義務となっています(労働安全衛生法66条の9、労働安全衛生法施行規則52条の8)。
ここでの労働時間の算定は毎月1回以上、一定の期日を定めて行う必要があります。
月あたりの時間外・休日労働時間数
=1カ月の総労働時間数*-(計算期間(1カ月間)の総暦日数/7)×40
*1カ月の総労働時間数=労働時間数+延長時間数+休日労働時間数
面接指導に関連して会社が負う義務としては、以下のようなものがあります。
また、面接指導の対象となり得る長時間労働者であっても、申出がない限りは面接指導の実施義務はありません。
労働者としては、体調や労働環境に不安があるのであれば、自分から申出を行わなければいけません。
労働時間の計算については、兼業を行っている場合でも通算すると規定しています(労働基準法38条1項、昭和23年5月14日 基発769号)。
つまり、本業で8時間・兼業で4時間働いていたような場合、通算すると12時間という長時間労働となってしまいます。
このように、本業の他に兼業をしていて、結果的に長時間労働となり病気になってしまった…というような場合、どちらの会社が責任をとるのでしょうか。
それは、本業と兼業それぞれの労働時間がどのくらいかによって異なってきます。
例えば本業と兼業、両方とも法定労働時間を超えているような場合は、当然両方の会社に責任が生じます。
ですが多くの事案は、それぞれの使用者においては法定労働時間を超えることはないが、労働時間を通算すると法定労働時間を超える長時間・過重労働となる、というケースでしょう。
この場合、どちらの使用者の行為によって健康障害が発生したのか特定できないような場合には、労働者の健康障害は、双方の会社が労働させたことによって発生したと考えるべきです。
よって双方の会社は共同不法行為について連帯責任を負います。
つまり労働者は、どちらの会社に対しても生じた損害全額の損害賠償請求ができる、ということになります。
裁量労働制とは、一定の専門的業務や裁量的業務に従事する労働者の労働時間について、実際の労働時間数にかかわらず、労使協定や労使委員会の決議で定められた時間数だけ労働したものとみなすものです。
労使協定や労使委員会の決議で定められたみなし時間は、あくまでも労働基準法の労働時間の算定に当たっての「みなし」であって、使用者の安全配慮義務が問題となる場面では、みなし時間ではなく、現実の労働時間が判断の基礎となります。
よってみなし労働時間が法定労働時間内であったとしても、現実の労働時間が法定労働時間を超えているような場合は、会社は長時間労働者に対するケアなどの安全配慮義務を負う可能性があります。
安全配慮義務の内容は、労働者の地位や職務内容、具体的状況によって変化します。
ここでは、様々な労働者を想定して、具体的にどのような安全配慮義務が生じるかを考えてみましょう。
会社は障害者の労働者に対して、雇入れ時の健康診断の結果を踏まえて、その健康状況に応じた措置をとることが安全配慮義務として求められます。
安全配慮義務を考える場合において、障害者とは一般に、障害者雇用促進法ならびに厚生労働省令で定める障害者、身体障害者、知的障害者、精神障害者を指します。
会社は雇入時の健康診断の結果、異常所見がある者について、医師等の意見を聴取し、必要があるときは適切な措置を講じなければなりません(労働安全衛生法66条の5)。
適切な措置の内容としては、就業場所の変更、作業転換、労働時間の短縮等の措置、作業環境の測定の実施、施設または設備の設置・整備などが挙げられます。
在宅勤務者とは、労働者が労働時間の全部または一部について自宅で情報通信機器を用いて勤務を行う者をいいます。
在宅勤務は、勤務場所が自宅なので、事業場外労働としてみなし労働時間制が適用されます。
ですが労働契約であることに変わりないので、通常勤務の労働者に対する場合と同様に、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負います。
したがって、使用者は、在宅勤務者に対しても必要な健康診断を行うとともに、雇入れ時に必要な安全衛生教育を行う必要があります(労働安全衛生法66条1項、59条1項)。
さらに、在宅勤務者の健康障害を防止することも会社の安全配慮義務に含まれます。
よって、在宅勤務労働者に対し業務の従事した時間を日報等に記録させ、その記録によって労働時間の適切な把握をし、労働時間や業務内容の改善を行うことも求められます。
また、在宅勤務においては「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」(令和元年7月12日 基発0712第3号)等に留意し、労働者にその内容を周知し、必要な助言をすることが望まれます。
会社の業務において請負が行われ複数の会社が関わっている場合、労働者が所属している会社だけではなく、元請企業にも安全配慮義務が認められる場合があります。
元請企業が安全配慮義務を負うのは、元請企業と下請・孫請企業労働者が「特別な社会的接触の関係」に入ったと認められる場合です。
どのような場合に「特別な社会的接触の関係」に入ったと認められるのかについては、作業の場所・設備・機械・器具を下請・孫請企業の労働者に貸与したり、作業体制・安全体制などの作業環境を作出し支配管理し、あるいは事実上作業上の指揮命令をする等、実質的に使用者とみられるような場合であると考えられています。
出向は、出向元との労働契約関係を保持したまま、出向先において労務に従事する人事異動です。
出向労働関係において労働者は、出向先の指揮命令に従い労務を提供するので、出向先は当然に安全配慮義務を負うことになります。
また、出向元が安全配慮義務を負うか否かを判断するには、出向労働関係の実態を検討する必要があります。
例えば、出向元が出向後も出向労働者の勤務状況を把握して仕事上の困難等の相談を受けたりしているような場合には、出向元も労働者の健康障害を防止する義務を負う可能性もあります。
労働者に対し健康診断を実施することは、会社の義務の1つです(労働安全衛生法66条)。
ですがこれらの義務は労働災害防止のための最低基準にすぎず、健康診断を行ったから安全配慮義務は果たした、というものではありません(同法3条1項)。
健康診断に関連した措置を会社が講じて、安全配慮義務を果たしているかどうかを確認しましょう。
例えば労働者が過重労働や仕事上のストレスによって精神疾患に罹患し、その精神疾患によって自殺した、という場合において、会社は「健康診断を行っていた」という理由だけでは責任を免れません。
何故なら健康診断や医師の診断書を通じて労働者がうつ病等の精神疾患に罹患し、要治療状態にあることを知ったようなときは、それに応じた職務の軽減、就業禁止などの措置を取ることが安全配慮義務として求められるためです。
過重負荷労働により労働者の健康が悪化することを予見していたにも関わらず、そのような措置をとらなかった場合には、会社に安全配慮義務が認められます。
労働者やその家族は安全配慮義務違反に基づき、損害賠償請求をすることができます。
健康診断で労働者の身心に何かしら問題が生じていることがわかった場合、会社には別の安全配慮義務が生じます。
具体的には、以下のような措置をとることが求められています。
例えば健康診断の結果、高血圧や糖尿病といった脳血管疾患や心臓疾患の発症リスクの高い疾患を把握した場合、会社はこれら疾患を増悪させるような業務を避ける、深夜残業の回数を減らすなど、就業上の措置を講ずる必要があります。
また、これらの義務は労働災害防止のための「最低基準」であるため、会社が上記の措置を行ったからといってそれだけで安全配慮義務に違反していないということにはなりません。(労働安全衛生法3条1項)
労働者としては自身の訴えに見合った適切な措置を求めていくことが重要です。
例えば、うつ病であることを産業医が知っていながら、会社に対して業務負荷を軽減するように勧告しなかった場合、会社は安全配慮義務違反の責任を負うのでしょうか。
産業医とは、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任され、労働者の健康管理を行う者です(労働安全衛生法13条1項、労働安全衛生法施行令5条)。
産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、必要な勧告ができます(労働安全衛生法13条5項)。
しかしこの勧告がなされなくとも、業務の遂行により疾病に罹患していることが明らかな場合には、会社は、業務の軽減や就業禁止の措置をとることが必要となります。
よってそのような場合に、必要な措置をとらなかったために労働者に損害が生じたときには、安全配慮義務違反を問われることがあります。
通常、健康診断は外部の医療機関に委託をして行われます。
この時、医療機関側のミスで健康上の問題が見過ごされ、その後労働者に損害が生じたような場合には会社に責任はあるのでしょうか。
健康診断は医療機関の医師が独立して行うものであり、医師は会社の支配下で働いてるわけでもありませんから、仮にその医師の健康診断行為に過誤があったとしても、会社は責任を負いません。
ただし例外的に、企業内に医療機関を設けたり医師を雇用している場合・健康診断の医療水準が低く、会社がそれを知っていたなどの特殊な事情がある場合は、安全配慮義務違反が認められることもあります。
衛生管理者とは、常時50人以上の労働者を使用する会社において、労働者の健康障害を防止することを目的として選任される者です(労働安全衛生法12条、労働安全衛生規則7条)。
衛生管理者の具体的な職務は、以下のように定められています。
衛生管理者の職務の中には健康診断の実施、その他健康の保持増進のための措置も含まれています。
よって衛生管理者には、産業医や健康診断を行った機関、会社と連携して、労働者の健康上の問題に対応していく安全配慮義務があると言えます。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。