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一般に、怪我や病気をした時にお世話になるのは健康保険です。
ですがその怪我や病気の原因が仕事、つまり業務災害である場合、健康保険ではなく労災保険にお世話になることになります。
労災保険の給付を受けるには、事業主(会社)の協力が必要となります。
ですが労災認定されると会社は様々な法律上の不利益を受ける場合があり、労災の適用をめぐって労働者と会社とが対立することもあります。
この記事では、「これは労災が適用される事案なんだろうか?」「労災を巡って会社と争っている」ことでお悩みの方に向けて、労災保険の解説を行います。
労災かどうかを認定するにあたっては、以下の2つの条件が満たされている必要があります。
職場内で荷物を運搬していて転倒した、工事作業中に足場から落ちた…などの例が典型的ですが、なかには判断の難しい例もあります。
どのような例があるのか、見ていきましょう。
入社前の研修やインターンシップ中であっても、労災保険の適用を受けることがあります。
労災保険の適用対象は、労働者です。
ここでの労働者とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者とされています。
つまり入社前であっても、実習や職場参加が使用者の指揮命令の下で行われ、その対償として賃金が支払われる場合には、採用内定者も労災保険法上の労働者に該当し、労災保険の適用を受けることになります。
入社前のパターンとは逆に、退職後であっても時効期間内であれば労災保険の適用を受けることができます。
具体的な期間は、労災保険により何を受け取ろうとするかによって変わります。
いずれも、労災の受給権を行使するにあたり障害がなくなった時点から時効が進行します。
例えば、病院の治療費にあたる療養補償給付についてはその費用を出した翌日から、療養のための休業補償については賃金を受けなかった翌日から、後遺障害が残ったときの一時金である障害給付については傷病が治った翌日から進行します。
労働者は、業務上の負傷、疾病、障害または死亡に対し、保険給付を受ける権利(受給権)を有しています。
派遣社員も当然に労働者にあたるため、契約期間満了後も労災保険を受け取れます。
また、療養のため出勤できなかった場合の賃金相当額を支給する休業補償については、仮に契約期間満了したとしても、その後も支払われることになっています(昭和23年8月9日 基収2370号)。
例えば仕事中、勝手な判断で命じられたのとは異なる業務をしていたり、または安全義務に反した作業をしていたような場合には労災保険は支払われるのでしょうか。
労働者が、故意に負傷、疾病、障害もしくは死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせたときは、保険給付はなされません(労災保険法12条の2の2第1項)。
また、労働者が故意の犯罪行為もしくは重大な過失により、負傷、疾病、障害もしくは死亡もしくはこれらの原因となった事故を生じさせたときは、保険給付の一部~全部が制限されます(労災保険法12条の2の2第2項)。
つまり、単なる過失により業務災害が生じたような場合には、労災保険が減額されたり支払われないことはありません。
重大な過失の具体例としては、法令(労働基準法、鉱山保安法、道路交通法等)のうち罰則のある条項に違反する行為などが挙げられます(労働基準局長通達昭和40年7月31日 基発901号)。
すなわち、酒酔い運転の状態で社用車を運転することなどが該当します。
出向とは、労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当期間にわたり当該他企業の業務に従事することをいいます。
そこで出向先に無断で出向元の仕事をした場合に発生した事故は、労災の対象である「業務」中に起こった事故と認められるでしょうか。
原則としては、出向先の指揮監督を受けて業務に従事する場合には、出向先の業務について労災保険の適用がなされます。
ですが例外として、出向元事業と出向先事業との業務が密接に関連し、さらに出向労働者が出向元事業の業務を行うことが、出向先事業における業務を担当する労働者として合理的であるか、または必要な行為であるといえる場合には、当該出向元での業務も業務行為に含まれます。
反対に、休暇中に出向元から頼まれてアルバイトとして仕事を手伝った際に災害を被ったような、出向元事業と出向先事業との業務の関連がない場合は、業務行為とはいえません。
ただし、この場合に出向元事業との関係で労災保険関係が成立すれば、出向元の労災保険が適用されることがあります。
業務災害とぎりぎり認められるような、限界事例はどんなものでしょうか。
①出張先の宿泊先で強盗にあった事例、②会社の給食での食中毒、③別の作業場からもらった食材での食中毒、④寄宿舎での火災で泥酔につき逃げ遅れた事例 のそれぞれについて検討してみましょう。
①出張先での宿泊先での飲酒、入浴、用便、睡眠など、通常宿泊行為に伴う行為中の事故であれば、労災として認定されえます。
具体的には、出張先のホテルのお風呂で滑って転んだ、というような事故も、業務災害にあたると考えられています。
ですが宿泊先のホテルで強盗にあったなど「通常宿泊行為に伴う行為」とはいえない場合、災害発生の経緯、被災労働者の職務の内容や性質からみて、もたらされた災害が明らかに業務に関連していると認められる場合には、業務起因性が認められます。
②会社の出した給食で食中毒が起きた場合は、会社の給食施設に起因して生じたと認められるのであれば、業務災害と認定されえます。
③一方で漁業協同組合の漁舎の給食賄員が隣接の作業場からもらった食材を夕食時に一部の同僚とともに食べたところ、食中毒によって死亡した事案については、責任者が食材をもらった事実を知らず、給食とするよう指示した事実がないとして、業務災害とは認められませんでした。
④事業付属寄宿舎の火災の際、泥酔のため逃げ遅れ死亡した事案については、寄宿舎に起居をしている限りでは、事業主の管理下に置かれているものと解せられるとして、業務災害が認められました。
通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病などを指します。
いわゆる通勤中に起こった事故のうち、業務の性質を有するもの、例えば休日の緊急出勤などが除外されます。
具体的にどのような条件が必要になるかなどを確認していきましょう。
通勤災害にあたるには、以下の条件が満たされている必要があります。
移動の制限については、例えば大きな寄り道をしているときの事故・業務後に私的な友人との飲み会をした帰りなどに起きた事故などが除外されます。
さらに「合理的な経路及び方法」とは、公共交通機関、自動車、徒歩など一般に労働者が通常用いるものと認められる交通手段等をいい、いつも利用していることまでは必要とされません。
仮に職場でマイカー通勤が禁止されているとしても、自動車による通勤は一般に労働者が用いる手段と考えられるので、「合理的な方法」として通勤災害が適用される余地があります。
一方で故意の無免許運転、泥酔した状態での運転は「合理的な方法」とはいえず、通勤災害とは認められません。
通勤災害として認められる移動は基本的に住居と就業の場所間の移動に限られています。
ですが単身赴任中は、住居が赴任先住居と帰省先住居の2つがあり、赴任先住居から帰省先住居に向かう際に事故にあった場合、通勤災害となるのかが問題となります。
単身赴任中の通勤災害に関しては、以下の条件を満たしたときは認められる、と考えられています。
労働災害が生じた場合、被災労働者および遺族は、労災保険に基づき補償を請求できます。
労災保険により補償されきらない損害(入院雑費や付添看護費、慰謝料といった労災保険給付で補填されない損害)については、使用者あるいは第三者に対し、民法上の損害賠償請求ができます。
また第三者の行為によって労働災害が発生した場合は、被災労働者や遺族は、労災保険給付を請求できるほか、第三者である加害者に対し民法上の損害賠償を請求できます。
その場合、労災保険では補償したぶんは民法上の損害賠償請求権から控除され、また民法上の損害賠償金を受け取ったぶんは労災保険の給付から控除される、という関係になります。
さらに第三者による労働災害が自動車事故であった場合、労災保険・民法上の損害賠償請求・自動車保険からの補償を受け取ることもできます。
自動車保険による補償を受ける場合も同様に、既に労災保険・民法上の損害賠償請求で支払われたぶんの金銭をさらに保険会社に請求することはできません。
結局のところ、どの保険や損害賠償請求を用いることもできるが、発生した損害額以上の補償を請求することはできない、ということになります。
仕事によっては、普段の就業の場所を離れて出張をすることもあります。
そんな出張中に怪我や病気をしたときは、労災事故となるのでしょうか。
出張が、自宅からいったん会社に出向いて会社から出張先に赴き、用務を終えて会社に戻る場合には、その全過程を出張とみることができます。
これに対して、自宅から出張先に直接赴いたり、用務を終えて直接自宅に戻る場合、その過程は通勤途上となるのかどうかが問題となります。
基本的には、出張中は特段の事情がない限り、全過程が出張として事業主の支配下にあり、業務遂行性が認められます。
出張に通常伴う食事、喫茶、移動中の乗り物での睡眠などの行為であっても、それが出張に通常伴う行為と認められる場合は、その間に生じた災害についての業務起因性は否定されません。
ただし出張先に向かう経路が不合理な経路であったり、帰路の途中で名所旧跡見学などをするような、出張に通常伴う私的行為とは認められない行為中に災害が生じた場合には、業務災害とはなりません。
一般的には出張の場合、労働時間はみなし時間が適用され、所定労働時間労働したもの、または労使協定で定める時間労働したものとみなされます((労働基準法38条の2第1項)。
そこで、例えば夜6時まで労働するとみなされていたようなときに、夜10時に事故が発生したような場合は労働時間外の事故ですから、業務遂行性がない、とも考えられます。
ですがみなし労働時間制が適用されるのは、あくまで労働時間の算定の範囲においてです。
出張は使用者の指揮命令の下に行われている以上、その全過程が事業主の支配下にあるということに変わりはなく、みなし労働時間外の事故であっても、業務遂行性と業務起因性が認められれば労災認定がなされます。
実際の業務は、労働者自身が所属する会社のみならず複数の会社の協力によって成り立っているものも多くあります。
そんな時、会社間で「その労災は別の会社のせいでおきた」と責任のなすりつけあいが起きてしまう可能性もあります。
実際に会社に責任を問えるかどうか、事例を見て考えていきましょう。
リース会社とは、顧客が必要とする機械設備などを代理購入して、貸し出すサービスのことを指します。
リース会社の設置・点検のミスにより貸出を受けた会社の労働者が被害を被った場合、まずは当然にリース会社に責任が発生します。
さらに貸し出された会社側も、労働者に対し、機械・設備等を使用して労務を提供する過程において、労働者の生命・身体を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負担しています。
よってたとえリース会社の設置・点検ミスが原因であったとしても、この義務に違反したと認められる場合には、貸出を受けた会社も責任は免れません。
なお例外として、結果としてリース会社の設置・点検ミスが原因でも、通常はあり得ないような材料の瑕疵で、貸出を受けたときに注意を尽くしても発見できないような場合には、安全配慮義務に違反しないこともあります。
労災保険は、零細事業であっても適用対象となり、保険料を納付していなくても業務災害に対する保険給付は行われます。
通常は、労働者を1人でも使用する会社はそれぞれ事業主として労災の責任を負います。
なお例外として、複数の請負によって建設の事業が行われている場合には、労働保険の保険料の徴収等に関する法律の適用については、元請負人のみが全体の事業の事業主とされます(労働保険徴収法8条1項、同法施行規則7条)。
なお、元請企業が下請企業の労働者の労災事故に対し責任を負うのは、元請企業が不法行為責任を負う場合と、安全配慮義務違反の責任を負う場合です。
元請企業は下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係を有するとされています。
よって、もしも元請企業はその安全配慮義務に違反があった場合、下請企業の労働者に対しても損害賠償義務を負うことになります。
転勤命令や退職勧奨により精神疾患を発症してしまった、ノルマ未達成の責任を感じて自殺してしまったなど、このような事案は労災とされるのでしょうか。
作業環境や作業負荷に起因することが明らかな職業性疾病については、労災と認められます(労働基準法施行規則35条、別表第1の2)。
具体的には、紫外線にさらされる業務における皮膚疾患や患者診療に伴う伝染病罹患などが該当します。
うつ病等の精神障害が業務上疾病として認められるには、以下の条件を満たすことが求められます。
さらに作業環境や作業負荷に起因する、といえるかについてはうつ病に関する医学的知見を踏まえて、発病前の業務内容及び生活状況ならびにこれらが労働者に与える心身的負担の有無や程度、さらには当該労働者の基礎疾患などの身体的要因や、うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に検討し、社会通念に照らして判断します。
その結果、業務と精神疾患罹患との間に業務起因性がある、その精神疾患が業務上疾病であると認められれば、労災として認定されえます。
労働者の自殺については、一般に労働者の故意による行為であるため、労災の適用範囲外であるとも考えられます。
ですが業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、または自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、故意による行為とはなりません(「精神障害による自殺の取扱いについて」 平成11年9月14日 基発545号)。
したがって、業務による精神的負荷が原因となって精神障害を発症した者が自殺した場合であって、かつ業務と自殺との間に業務起因性が認められる場合には、業務上の災害となることがあります。
もしも会社が労働災害の発生を報告をせず、もしくは虚偽の報告をし、又は文書の提出をせず、もしくは虚偽の記載をした文書を提出した場合には、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑に処せられます(労災保険法51条1項)。
事業主は、労働災害などによって労働者が死傷した場合には、労働者死傷病報告(労働安全衛生法施行規則様式23号)を遅滞なく労働基準監督署長あてに提出しなければなりません(労働安全衛生法施行規則97条1項、労働基準法施行規則57条1項)。
労働者死傷病報告を故意に提出しなかったり、虚偽の労働者死傷病報告を提出することは、一般に「労災かくし」といわれています。
使用者が「労災かくし」を行った場合、使用者は、労働安全衛生法100条違反として50万円以下の罰金に処せられます(労働安全衛生法120条5号)。
また、法人の代表者その他の従業員がその法人の業務に関して、労働安全衛生法100条違反を行った場合、当該行為者のほか、当該法人も両罰規定により罰金に処せられます(122条)。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。