精神障害になったときの労災認定の3つの要件を詳しく解説

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

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この記事でわかること

・精神障害は労災として認められにくいこと
・精神障害が労災を認められるには3つの要件を満たしている必要があること
・精神障害による労災が認められない場合でも、傷病手当金の請求ができる可能性があること

精神障害になった場合、労災と認めてもらうことはできるのか、労災の認定にはどのような条件があるのかについて知りたいのではないでしょうか?

業務が原因で精神障害になった場合は、一般的な業務上のけがや病気の場合より労災の認定が難しいです。精神障害が発病した原因が、仕事によるストレスなのか私生活によるストレスなのかの判断が困難だからです。

そのため、精神障害が労災と認められるためには、3つの要件を満たすことが必要とされています。また、精神障害を労災と認めてもらえなかった場合は、健康保険による傷病手当金の請求が出来る可能性があります。

この記事では、精神障害の労災認定の難しさ、精神障害が労災として認定される3つの要件、労災の申請をする前に準備しておくこと、労災申請の手続き、精神障害による労災が認定されなかったときにできることについて解説します。

精神障害は労災認定が難しい

精神障害が発病する要因としては、私生活におけるストレスと仕事上のストレスの2つが考えられます。
それぞれのストレスの具体的な内容は以下のようなものがあります。

私生活のストレス

仕事上のストレス

  • 自分に起きた出来事
  • 家族や親族に関する出来事
  • 金銭的なトラブル
  • 事故や災害に遭遇
  • 仕事での大きな失敗
  • 重大な責任の仕事
  • 職場環境の変化
  • 仕事内容の変化

精神障害が労災と認定されるのは、その精神障害が仕事に起因する強いストレスである場合に限られます。

ただし、ストレスを感じる原因は、私生活と仕事のどちらかだけとは限りません。私生活のストレスと仕事のストレスの両方を抱えている場合も考えられます。精神障害を発病した要因がどちらなのかを判断して、労災の認定がおこなわれます。

精神障害の労災申請に対する支給件数の割合

2016年から2019年における、精神障害の労災申請件数と支給が決定した件数と割合は以下の通りです。

2016年

2017年

2018年

2019年

請求件数

1,586

1,732

1,820

2,060

支給決定件数

498

506

465

509

認定率

36.8%

32.8%

31.8%

32.1%

請求件数は毎年増加していますが認定率は30%代になっており、精神障害の労災認定が難しいことが分かります。

業種別・年齢別の労災申請状況

精神障害の労災申請をおこなっている業種は、「医療,福祉」・「製造業」・「卸売業,小売業」が上位を占めています。年齢別にみると、「40~49歳」がもっとも多く、次いで「30~39歳」・「20~29歳」と続いています。

参考:精神障害の労災補償状況

精神障害が労災として認定される3つの要件

精神障害が労災として認定されるためには以下の3点を満たしている必要があります。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 精神障害が発病する前のおおむね6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したと認められないこと

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること

    全ての精神障害が労災認定の対象となるわけではありません。うつ病やパワハラ・セクハラについては労災認定の対象ですが、認知症やアルコール、薬物による障害は除外されます。

    業務による強い心理的負荷が認められること

    業務による心理的負荷がどの程度のものであったのかを、「業務による心理的負荷評価表」を用いて評価されます。「特別な出来事」に該当する出来事があったかどうか、長時間労働をおこなっていたかどうかなどによって評価がおこなわれます。

    「特別な出来事」とは、「心理的負荷が極度のもの」と「極度の長時間労働」の2つです。

    「心理的負荷が極度のもの」は以下のようなものになります。

    • 生死にかかわる、極度の苦痛をともなうといった後遺障害が残る業務上の病気やケガをした
    • 仕事中に他人を死亡させた、あついは命にかかわる重大なけがを負わせた
    • 強姦やわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた

    • 「極度の長時間労働」は以下のようなものになります。

      • 発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働
      • 発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働

      • 「出来事」としての長時間労働は以下のようなものになります。

        • 発病直前の2か月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働
        • 発病直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働

        • 業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したと認められないこと

          ストレスを感じるのは、仕事に関するものだけではなく、私生活における出来事の場合もあります。仕事以外に私生活に問題はなかったのか、精神障害が発病した原因は私生活とは関係がないかなどを検討したうえで、労災の認定がおこなわれます。

          精神障害で労災申請する前に準備しておくこと

          精神障害で労災申請をおこなう前に準備しておくことは、医師による診察を受けることと客観的な証拠集めです。労災の認定で重要なものなので、しっかり準備しておきましょう。

          医師による診察を受けること

          精神障害であることを証明するためには、医師による診察が必要になります。精神障害は他人から見ても判断がつきにくいことが多いので、専門の医師による診察と適切な治療を受けているかが重要です。診察時のカルテが労災認定の判断に用いられる場合もあります。

          客観的な証拠集め

          精神障害が業務に起因するものなのかを証明するためには、客観的な証拠が必要です。パワハラやセクハラであれば上司からどのような言葉をかけられたのか、長時間労働であればタイムカードなどの実際の労働時間が確認できるものなど、客観的に判断ができる証拠を確保しておきましょう。

          精神障害で労災申請する場合の手続き

          精神障害で労災申請する場合は、会社からの協力がもらえないケースが多いです。従業員が業務に起因した精神障害になったことを認めたくないと考える会社が多いからです。

          労災の申請をおこなう場所は、所轄の労働基準監督署です。所定の申請書に必要事項を記入して提出します。申請書は、労働基準監督署や労働局でもらうか、厚生労働省のHPからダウンロードしましょう。

          申請書を提出後は、労働基準監督署が労災に該当するかの調査を行います。調査が完了すると、労災支給決定あるいは不支給の通知書が送られてきます。労災の支給が認められた場合には、事前に電話で連絡が来ることもあるようです。

          労災が認定されなかったら傷病手当金の請求を検討する

          精神障害が労災と認められなかった場合は、傷病手当金の請求を検討してみましょう。条件を満たしていれば、傷病手当金がもらえる可能性があります。

          傷病手当金とは、病気やけがによって働けなくなった労働者の生活を補償するために、健康保険の被保険者が受け取れるお金です。

          傷病手当金を受け取るためには、以下の4点を満たしている必要があります。

          • 業務外の私的な病気やけがであること
          • 病気やけがにより働けない状態であること
          • 連続する3日間を含み、合計4日以上休んでいること
          • 会社から賃金を受け取っていないこと

          • 労災の認定と比較すると、傷病手当金を受け取るためのハードルは低いです。精神障害で働けない状態になり、労災の認定が受けられなければ、傷病手当金の請求も検討してみましょう。

            監修者


            みんなのユニオン

            執行委員岡野武志

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            みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。