解雇時に発生する金銭について解雇予告手当と退職金

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

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この記事でわかること

・解雇予告手当とは解雇をする際に必要な期間を短縮するもの
・退職金は就業規則や個別の労働契約で発生するもので、解雇の場合であっても一部払われる可能性がある
・どちらも不支給の場合は、労働者が相当に悪質な行為をしたときに限られる

労働者が解雇される場合、ある民事上の請求権が労働者に発生する可能性があることをご存じでしょうか。
一つは解雇予告手当、一つは退職金です。
本記事においては以上の二つの金銭について、以下の例の法的問題について検討していきます。

解雇予告手当とは

Aさんはタクシー運転会社のX社に20年ほど勤めています。

X社の就業規則によると労働者には退職金を一定の額支給する定めや、退職金を一定の事由がある場合に減額・不支給とする定めがあります。

Aさんは最近家庭のことがうまくいっていないこともあり、接客の態度が悪いことや、運転が荒いことで何度か客や通行人からクレームを半年に4回ほど受け、会社からも注意を受けています。

4回目のクレームの数日後、Aさんのことについて5回目のクレームが入り、耐えきれなくなった上司YはAさんを解雇することにして、「お前には退職金も解雇予告手当もやらん。」と言いました。

上例では、上司Yは「解雇予告手当」と「退職金」を支払わないと述べています。
本件に関しては解雇の有効性も問題にはなるのですが、ここでは解雇予告手当と退職金の問題に絞って説明をしていきます。
まずは解雇予告手当についてです。

解雇予告手当の法的性質

労働基準法20条は以下のように定められています。

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

すなわち、使用者が労働者を解雇するには、(1)予告をして、予告から「30日」の経過を待って解雇するか、(2)1〜30日分の平均賃金を支払うことによって期間を短縮して解雇するかの2パターンがあることになります。
すなわち、使用者が平均賃金20日分を労働者に渡せば、予告後10日で労働者を解雇できることになります。
このような金銭が発生するのは、労働が性質上、労働者の生活の基盤になっていることが多く、突然の解雇を認めると労働者の経済的安定性があまりにも損なわれるからです。
このように解雇予告の期間を短縮する代わりに支給するため、同金銭を解雇予告手当といいます。

解雇予告手当が不要な場合

もっとも、労働基準法20条1項但書において、解雇予告手当が支払われない場合があることも定められています。
(1)天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合、(2)労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合

以上については解雇予告をせず、または解雇予告手当を支払わず、労働者を解雇できると定めています。
なお同条3項によると、即時解雇をするに(原則として)先だって、使用者は行政官庁に上(1)(2)にあたるかを審査してもらい、除外認定を受けることが必要です。
(1)天災事変については地震や疫病など分かりやすいのですが、(2)労働者の責めに帰すべき事由とは何でしょうか。
この点について行政解釈によると、労働者の非違行為が重大・悪質であり予告なしで解雇することもやむを得ない場合などが(2)労働者の責めに帰すべき場合にあたるとしています。
この悪質性や、重大性は多角的、総合的な考慮が必要になります。

Aさんについて

ここでAさんの行為が重大で悪質か否かは、Aさんにあてられたクレームの事情となった危険運転や客への態度の悪さの具体的態様によります。
Aさんが客や通行人から5回もクレームを受けていることからすると、X社の評判を大きく失墜させたといえなくもないですし、会社からの再三の注意を受けてもなお改善がないことからしても、解雇予告手当の不支給が認められてしまう可能性も十分あるといっていいでしょう。

退職金について

次に退職金の不支給についても検討が必要です。

退職金の性質とは?

判例によると、個別の労働契約や就業規則でその支給が明示されて初めて労働者に退職金請求権が発生するとされています。
なお労働基準法89条3号の2では、会社が退職金制度を設ける場合には、同制度に関して就業規則に定めを置くことが義務付けられています。
退職金は一般に、二つの性格を併せ持っていると言われています。
一つは、賃金を算定基礎として勤続年数に応じ、その額を増やしていくことから賃金後払的性格を持つといわれています。
次に、勤務年数による退職金の増加率は累進的であり、勤務年数が同じ人でも退職事由や会社への貢献度によってその額が異なることから功労報償的性格を有すると言われています。
もっとも退職金制度は会社によってその構築が異なるため、上はあくまで一般論にとどまります。退職金制度によっては賃金後払性格しか認められないようなものも考えられます。

退職金の減額について

先述の通り、労働基準法89条3号の2によると会社が退職金制度を定める場合には「適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」について就業規則に規定を置かなければならないとされています。
したがって、一定の事由が存在する場合に退職金を減額、または不支給とする場合にもその仕組みを就業規則に明示しなければならないとされています。
もしも退職金の減額・不支給条項が就業規則にある場合、同規定の有効性が問題となります。
判例によると退職金制度は功労報償的性格を持つことから、勤続の功労を抹消、減殺してしまうような著しく信義に反する行為があった場合にのみ、不支給や減額が認められうるとしています。

Aさんについて

それではAさんの例について検討していきます。
まずX社には退職金の定めが存在するので、退職金不支給の規定に該当しない限りAさんに退職金請求権自体は発生しています。
次にX社には退職金減額・不支給の定めも存在するのでその規定の方法によっては退職金の減額・不支給も不可能ではありません。
もっとも、Aさんは最近になってクレームが頻発する運転を始めてしまったものの、20年の勤務というのはかなりの会社への貢献といえます。
その功労が5回のクレームで全て抹消されるとは普通の人の感覚においても妥当ではないと感じるのではないでしょうか。
したがって、Aさんに退職金を支給しないことは違法と解される可能性が高いです。
もちろん、クレームの内容やAさんの行為の具体的態様によっては全額に近い額の不支給も認められる余地はあります。

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執行委員岡野武志

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