あれもパワハラ!パワハラで退職に追い込まれた場合にできる請求について

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

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この記事でわかること

・パワハラは同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
・解雇や退職勧奨など一見使用者に権限があるように見える行為であってもパワハラにあたる可能性がある
・パワハラにより退職に追い込まれた場合、退職の元となった行為(解雇や退職勧奨など)を無効にしたり、パワハラを行った加害者や会社に損害賠償請求ができる

「パワーハラスメント」という言葉がクローズアップされ始めてしばらく経ちました。労働者であればこの言葉を聞いたことがないという方は少ないのではないでしょうか。
しかしながら、言葉ではわかっていてもいざ具体的に何がパワハラにあたるか考えてみると非常に難しい場合が多く、知らず知らずのうちにパワハラにあっていたという人もいます。
本記事においてはパワハラの定義について触れるとともに、パワハラによって退職に追い込まれた労働者を想定し、法的にどのような請求ができるかについてまとめていきます。

パワハラとは

職場におけるパワハラの判断は非常に困難です。
なぜなら、職場においては「指導」や「命令」が必要不可欠であり、そのような職務上の適正な行為とパワハラの区別が難しいことが多いからです。
ここでは厚生労働省の見解や法律上、「パワハラ」がどのような行為とされているかについて述べていきます。

パワハラの定義

厚生労働省の見解によると、パワハラとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」とされています。
さらに労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下では「労働施策総合推進法」)30条の2では以下のように定めています。

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

要するに①加害者と被害者の間に何らかの優越的関係があり、②業務上必要性が乏しかったり、必要性があったとしても相当とは認められないものであって、③労働者に身体的または精神的な苦痛を与えたり、職場環境を害するものが公的に「パワハラ」とされています。
(以下①〜③を「三要件」といいます。)

パワハラに関する具体例①

それでは具体的にどのような行為がパワハラにあたるのでしょうか。
以下の例を見ていきましょう。

【例1】部下Aはミスが目立ち周りとの協調性もないことから、これを解雇したいと思った上司Bは、Aに必要のない業務をさせたり、Aの些細なミスで長時間ほかの社員の面前で説教をしたりして、最終的に「君はこの仕事に向いていない、辞めた方がいい」といいAを退職に追い込んだ。


これは当然「パワハラ」にあたります。先の三要件に照らして考えると①AとBの間には上司と部下という分かりやすい上下関係があり、②Aの些細なミスに対して多少の叱責は必要かもしれませんが、長時間他の社員の面前で説教するほどのものとはいえないですし、③退職に追い込むほどの行為ですから当然労働者にとって「害悪」なものであったといえます。

パワハラに関する具体例②

上の例は分かりやすいパワハラでしたが次の例はどうでしょうか。

【例2】同僚であるXとYは、あるプロジェクトで同一のチームになった。

XとYは地位こそ同じではあったが、事実上Yの方が専門知識を有しておりXにノウハウを教えることも多かった。

Xの再三のミスにうんざりしたYは「俺と同じ時期に入社したはずなのにこんなこともできないのか」と言い放ち、「向いてないんじゃないか、この仕事」と告げた。

Xはその言葉にショックを受け、会社を退職した。


言っている内容は【例1】に近いですが、これもパワハラにあたるのでしょうか。
三要件に当てはめて考えると、①たとえ会社の地位が同じでも「優越的関係」とは専門知識の有無など何かしらの上下関係があればいいとされているので、「優越的関係」はあるといえます。
次に②について、ミスの程度や回数によっては、プロジェクトに対する向き不向きについて述べることは業務の範囲内であると言えます。
一方で、たった一回のミスで能力のみならず人格まで否定するような言葉を言われた場合は、通常の業務の範囲外であると解される可能性があります。
最後に③については、一般的な労働者を基準に同僚からそのような発言を受けた場合どのように感じるかを考慮することになります。一般に同僚から以上のようなことを言われれば、精神的苦痛を受けると認定される場合があります。

パワハラで退職した場合、法的に可能な請求

次に【例1】のAさんのようにパワハラを受けて退職してしまった場合、法的にどのような請求ができるのかについてまとめていきます。
パワハラの事案の場合、後述するように主な請求は損害賠償請求(金銭での解決)になります。

パワハラをした人に対する損害賠償請求

まず民法709条の不法行為責任により、パワハラをした人本人に損害賠償請求をすることが考えられます。
同請求においてはパワハラによって受けた精神的損害や、病院の通院代などの財産的損害が請求の元となるでしょう。

会社に対する損害賠償請求

まず使用者が労働者に直接パワハラをした場合には上と同様民法709条などによる損害賠償請求が考えられます。
次に【例2】のように同僚間でのパワハラであっても、被害者は会社に対して使用者責任(民法715条1項)や債務不履行責任(民法415条1項)による損害賠償請求をすることが考えられます。
使用者責任については「あなたが使役する者が私に損害を与えたのだからあなたが損害を賠償してくれ」という請求で、加害者が会社の従業員である場合に使われる損害賠償請求です。
そして債務不履行責任とは、「特定の義務を怠ったことにより発生した損害を賠償してくれ」というものですが、ここでいう「特定の義務」とは会社の「職場環境配慮義務」とされています。
特に労働施策総合推進法30条の2により、パワハラ防止のための体制整備義務が明文化された現在においては、同請求がかなりしやすくなったと言えるでしょう。

労働者としての地位の確認請求(退職の無効)

パワハラに基づく不当な解雇や、退職勧奨による退職の合意によって職を失ってしまった場合、会社に解雇の無効(労働契約法16条)や退職合意の無効や取消し(民法93条1項、95条1項、96条1項など)を主張することが考えられます。
もっとも、パワハラによる退職の場合にはこのような請求はしないことが多いです。
なぜなら同請求は「労働者としてまだ会社で働ける」地位の確認なので、パワハラをする人がいるような会社に戻りたくないという人が多いからです。

監修者


みんなのユニオン

執行委員岡野武志

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みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。