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厚生労働省によると、令和3年3月の新卒者に対する採用内定取消しの件数は2月末時点で100人となっています。
もっとも、これは事業主から公共職業安定所に通知されたものを集計した結果ですので、隠れた内定取消しの被害者はもっといるでしょう。
また、内定取消しは中途採用の場面においても問題となります。
内定取消しの通知が来たらどうすれば良いのでしょうか。
この記事で内定取消しの法的性質と内定取消しが違法・無効になる場合を確認し、不当な内定取消しに適切に対応できるようにしましょう。
目次
内定取消しの通知に対して、労働者はどういった主張ができるのでしょうか。
まずは内定取消しが違法となる条件について確認していきましょう。
もしもあなたが不当な解雇をされてしまった場合、解雇が無効なものであれば労働契約に基づく権利を主張・要求することができます。
では不当な内定取消しの場合はどうでしょうか。
仮に内定の時点で労働契約が成立していると言えるのであれば、内定取消しが違法・無効な場合には、解雇と同様に労働契約に基づいた権利を主張・要求できそうです。
判例は、内定について入社日を就労の始期とする「解約権留保付労働契約」であると解しています。
分かりやすくいうと?
すなわち、内定通知の時点で労働契約は有効に成立しているということです。
そして、内定取消しは成立した労働契約の一方的な解約、つまり解雇にあたると解されます。
もっとも、解約権が留保された労働契約ですので、入社日までは一定の事情があれば会社は内定を取り消す(解約する)ことができることになります。
内定を取消すためには一定の事情(内定取消事由)が必要です。
一般的に内定の取消事由は、採用内定通知書や誓約書に記載されています。
しかし、記載されている取消事由であればどんなものでも認められるというわけではありません。
内定取消しが認められる理由は?
会社が好き勝手に内定取消しができるとすると労働者の不利益が大きすぎるため、裁判所は内定取消事由について以下のように判断をしています。
「内定の取消事由は採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。」
大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)
つまり、「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない内定取消しは解約権の濫用として無効となるのです。
そして、内定取消しの理由は採用内定時に知ることができたようなものであってはいけません。
【内定取消が認められうる理由の例】
「社風に合わない」などの不合理な理由で内定取消しをすることは許されません。
また、過去の出来事を理由とする内定取消しや、会社側の一方的な理由による内定取消しも認められません。
内定取消しの理由として最も多いのは、経営の悪化です。
会社に雇う余裕がないということであれば、内定を取消されても仕方がないのでしょうか。
判断基準は?
いわゆる整理解雇(リストラ)に場合には以下の4要件が「客観的に合理的な理由」と、「社会通念上の相当性」を判断する際の基準になります。
この判断枠組みは、経営難を理由とする内定取消しにも妥当します。
近年のコロナウイルスの流行のような、予期しえない事情によって、人員削減が必要なほど経営が悪化してしまったような場合には、一定の合理性があると判断できるでしょう。
また、解雇対象者の選定基準についても、既に就労している従業員を整理解雇するのではなく、採用内定者から選定して内定取消しをしたとしても不合理とまではいえません。
しかし、会社は経営・人事計画に基づいて採用活動を行っている以上、短期間で内定取消しや解雇をせざるをえなくなるほど経営が悪化することは通常はあまりありません。
仮に、経営が悪化したとしても基本的にはその責任は会社にあるのであり、内定取消しが合理的で社会通念上相当といえる場合はまれでしょう。
したがって、経営難を理由とする内定取消しであっても認められないケースが多いと考えられます。
内定取消しの通知を受けたら、まずは会社に十分な説明を求め、理由を提示してもらいましょう。
もし口頭で言われただけであれば、書面での通知を求めてください。
そして、不当な内定取消しに対してできる請求や、相談先を確認しましょう。
違法な内定取消しを受けた場合、内定取消しの無効を主張し、会社に対し労働契約の履行を求めることができます。
つまり、入社日以降その会社で働くことを請求できるということです。
もし、無効な内定取消しであるにもかかわらず、入社日以降働くことが出来ない状況であれば、それは会社の責任ですので、実際に働くことが出来なくても労働契約に基づき賃金を請求することができます。
さらに、他の内定を辞退していたり、前職を退職していたような場合には損害賠償を請求することができます。
また、会社が内定取消しについて十分な説明責任を果たさない場合には、説明義務違反について損害賠償請求ができることもあります。
違法な内定取消しで会社と和解をする場合の和解金相場は、おおよそ賃金の3~6か月分程度になります。
和解金額に影響を与えるような事情には以下のものがあります。
こういった事情を証拠に基づいて主張することができれば、高額な和解金が支払われることもあります。
内定取消しによって現実的に1年間就職が遅れることになってしまう新卒者など、非常に大きな損害を受けるような場合には、1年分以上の金銭請求をしていくことも考えられます。
内定取消しが違法かどうか、違法としてどういった請求をすべきかということは専門家でなければ判断することは難しいでしょう。
個人で会社と交渉をするのは、大きな負担にもなりますので、まずは専門家へ相談をしてください。
労働問題の相談先としては労働基準監督署などもありますが、解雇などの労働契約上のトラブルの場合、積極的に介入してくれません。
これは、労働基準監督署があくまで会社の労働基準法違反を監督する機関だからです。
内定取消しを争い、就労や和解金を求めて、会社と交渉をしたいということであれば、弁護士や労働組合に相談することをおすすめします。
弁護士や労働組合による代理交渉でも話がまとまらなければ最終的には裁判所の手続で決着をつけることとなります。
裁判所の手続には通常の訴訟のほか、労働審判などもあります。
通常の訴訟ですと解決まで1年以上かかることもあり、コストや労力の負担も大きいですが、労働審判であれば最大3回の期日で終わるうえ手続も簡易です。
裁判上の手続の代理人になることができるのは弁護士だけです。
訴訟や労働審判を検討する際には、法的に有効な主張や手続を個人で行うのは難しいため、弁護士に相談することをおすすめします。
内定取消しについての諸問題を確認します。
会社によっては、正式な内定通知を受取る前に、口頭で内々定を言い渡される場合があります。
労働契約は書面でしなければいけないということはなく、口頭でも成立します。
したがって、たとえ「内々定」というような用語が使われていたとしても、その内容が実質的に「内定」と評価できれば、内々定の取消しも内定取消しと同様に違法性を主張することができます。
実質的に「内定」といえるかどうかは、当事者の認識や、実質的な運用、通知の内容などから判断されることになるでしょう。
ここまで説明したように、会社は簡単に内定取消しをすることはできません。
そこで、「辞退をご希望される方はご連絡ください」というような、会社から内定者の辞退を促す通知がくることもあります。
あくまで、会社が事情を説明し、内定辞退を促したり説得する程度であれば違法とはいえません。
応じるつもりがなければはっきりと断って構いません。
仮に内定辞退に自分から応じてしまうと、その後に内定取消しを争うことはできなくなってしまうので気を付けてください。
もっとも、暴行や脅迫行為を伴ったり、内定の辞退を希望しないにもかかわらず長時間・繰り返し説得をしてくるなど、内定辞退の「強要」と言えるような場合には、それ自体が違法行為であるとして損害賠償請求できる余地はあるでしょう。
内定によって労働契約が成立しており、内定取消しが労働契約の解約にあたるということであれば、内定取消しの際に解雇予告の規定が適用されるのか問題となります。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
試用期間中の14日以内の解雇であれば解雇予告の規定が適用されないこと(労働基準法21条)との均衡を考えれば、内定取消しの場合にも解雇予告の規定の適用はないものと考えられます。
また、労働基準法の「労働者」とは、会社に使用されて賃金の支払を受ける者をいうので、内定者は同条の「労働者」にあたらないとすればそもそも労働基準法の適用はありません。
一方で行政解釈では、「採用取消通知は本人の赴任前(現実に就労するまでの期間)であっても解雇の意思表示であると解され、従つて労働基準法第二十条の適用がある。」と解されています(昭27・5・27基監発第15号)。
このように内定取消しの際に解雇予告手当の支払を要するかについては、解釈の分かれるところではありますが、実際はほとんど支払われていないようです。
内定取消しでは、解雇予告手当の支払を巡って争うのではなく、通常は内定取消しの無効を争い、損害賠償や和解金という形で金銭的補償が実現されることが多いでしょう。
労働者が会社に解雇された場合、通常はハローワークに失業の申請をして7日間が経過すれば失業保険を受給することができます。
もっとも、失業保険を貰うためには一定期間雇用保険に加入していたことが必要です。
内定取消しも労働契約の解約ですが、雇用保険に入る前の段階ですので、内定取消しでは失業保険を受取ることはできません。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。