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この記事でわかること
会社から転勤命令を受けたら、多くの従業員が「応じたくないな」と感じることでしょう。家族がいる人は単身赴任になってしまう恐れもあり、そうでなくとも遠方への転居を伴う転勤は厳しいもの。上司からの転勤命令を拒否しようと検討する人もいるかもしれません。
しかし、転勤拒否した従業員に課されるペナルティは超甚大で、なんと懲戒解雇処分を食らう可能性もあるのです。今回は、どんなケースで転勤拒否が懲戒解雇となるのか、具体的に解説します。
目次
懲戒解雇処分とは、後の転職活動に影響を及ぼすこともある、企業が下す懲戒処分の中で最も重い処分です。懲戒解雇は従業員を社外に排除する必要性があると認められるほど、秩序や規律等に違反した行為をしでかした場合にしか適用されません。
例えば業務上の地位を利用して横領した時や悪質なパワハラ・セクハラがあった場合など極めて限定的なケースです。転勤拒否がこうした状況に当てはまると言えるのでしょうか?転勤拒否と懲戒解雇の関係性を見ていきましょう。
結論から言うと、転勤拒否すると懲戒解雇を受ける可能性があると考えられています。理由としては、長期雇用を前提とする正社員に対しては配置転換命令権の存在が強く肯定されているからです。
配置転換とは従業員の職務内容や勤務場所が長期にわたって変更されることを指します。通常、正社員は採用時点では職種や勤務地が限定されておらず、長期雇用が前提とされていることもあり会社は当然のことながら、配置転換命令権を有していると考えられます。
そして配置転換命令権の実効性を担保するために、会社側はその義務を履行しない従業員に対して、懲戒解雇処分を行うことが相当だとされます。ただし、転勤命令に従わない社員に対して、即座に懲戒解雇処分を下すのは禁じ手です。
必要かつ相当な説得を行い、それでも命令に従わなかった場合でないと懲戒解雇処分はされません。とはいえ、結局は命令に従い転勤を認めなければ、最終的に懲戒解雇処分を受けることもあります。転勤命令はこれほど強制力が強いものであることは認識しておいてください。
転勤命令に応じない場合、懲戒解雇処分が下されると言っても、これはあくまでもその転勤命令が有効なものだと認められる場合だけです。転勤命令が有効だと言えるためには、以下の2つの条件を満たすケースになります。
転勤命令を行う権限が会社にあると認められるには、基本的に就業規則に「転勤を命ずることが可能」との一般的な定めがある場合です。就業規則に明示されていれば、従業員はこの労働条件に応じたと解釈されます。
正当な理由があると認められない限り、従業員の転勤拒否は許されません。「正当な理由」とは、例えば個別の労働契約において、「勤務先は〇〇市内に限定する」と明示される場合があります。
地域限定の労働契約を結ぶこと自体は、労働基準法施行規則第5条にもとづき労働条件として明示していれば問題ありません。このケースでは従業員の転勤拒否に法的な根拠があると考えられるため、転勤命令が会社側の契約義務違反だと判断される可能性が高いです。
また、転勤命令が会社側の権利乱用だと判断できる時も、転勤命令の有効性が否定されます。会社の転勤命令が権利濫用だと捉えらえる具体的なケースは次の見出しで解説します。
転勤命令を行うことができると就業規則等に明示されていても、いかなる内容の命令でも認められるわけではありません。その転勤命令の目的や内容によっては、権利濫用にあたる可能性もあります。
権利濫用だと判断されればその転勤命令は無効になるので、従わなくても法律上は問題ありません。どんなケースで転勤命令が権利濫用に該当するか、3つの基準を紹介します。
その転勤命令が、従業員にとって「通常甘受すべき程度の著しく超える不利益を負わせる」と判断できた場合、権利濫用だと判断される場合があります。
問題となるのが通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の基準ですが、基本的には生活上の不利益や不便さを理由とするものは拒否理由としては認められません。
従業員が通常予測できる損害・苦痛を極めて著しく超える場合に、正当な拒否理由に当たると考えられます。
これだけだと分かりづらいと思うので、判例を一つ紹介します。ケンウッド事件(H12:1:28判決)では、夫婦共働きで子供を保育園に預けながら勤務している女性従業員に対し、目黒→八王子の転勤を命じたところ従わなかったので懲戒解雇処分としました。
この懲戒解雇処分の有効性が争われましたが、判決では問題無いと判じられました。通勤時間の増大や保育園送迎の負担が増える支障は「通常甘受すべき程度の著しく超える不利益」に該当しないと判断されたためです。
本人の負担はとても大きなものかもしれませんが、転勤によって通勤や送迎の手間が増えることは十分予想できうる内容です。
その転勤命令が業務上の必要性が無い、または乏しい時と判断できるケースでも、転勤命令の有効性が否定されます。端的に言うと、転勤命令以外の方法で代替はできないかという観点から判断されます。
判例によると、転勤命令を下すのはその従業員でなければいけないのか、他の従業員で代替することはできないか等の高度な必要性を証明する必要まではないとのことです。
といった、その他の代替措置を講じていたと認められれば、良いとされています。業務の必要性については判例はかなり広く認める傾向があるので、受けた転勤命令に業務上の必要性が無いとの従業員の主張は通りづらいと言えるでしょう。
転勤命令自体は問題なくとも不当な目的によってなされたものであれば、正当な転勤命令だとは言えません。例えば、退職に追い込むためなど個人的な報復や嫌がらせが該当します。
マリンクロットメディカル事件(H7.3.31決定)では東京から仙台への転勤命令を拒否した従業員が懲戒解雇処分を受けたケースにおいて、不当な目的があったと認められたために、転勤命令・懲戒解雇処分ともに無効だと判じられました。
このケースでは労働者を東京から排除し、退職に追い込む目的で転勤命令がなされたので、権限濫用だと判じられたのです。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。