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労働者は、会社の情報をみだりに外部に開示してはいけません。それは、労働者が使用者に対して秘密保持義務を負担しているからです。
今回は労働者が負う秘密保持義務とはどのような義務なのかについて説明していきます。
目次
秘密保持義務とはどのような義務なのでしょうか。
医師や弁護士など一定の職業に就いていることを理由に課せられている守秘義務とは異なります。
労働者は、在職中に「秘密保持義務」を負っているといわれています。
法律には、「労働者…は,労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」と規定されています。(労働契約法第3条4項)
秘密保持義務はこれに伴う付随義務として信義則上負っている義務であると解釈されています。
秘密保持義務における「秘密」とは,外部に開示されることで企業に対する正当な利益を侵害するおそれのある情報ということができます。
具体的な判断要素は?
秘密情報にあたるか否かは、①秘密管理性、②有用性、③非公知性という営業秘密の3要件で判断される場合があります。
①秘密管理性とは、会社で情報が秘密として管理されているかどうかということです。
②有用性とは、事業活動のために役に立つ情報であるということです。
③非公知性とは、一般的には知られていない情報であるということです。
なお、「営業秘密」とは後述の不正競争防止法によって保護される「秘密」のことをいいます。
秘密保持義務における「秘密」とは、基本的には労使間の契約の内容によって範囲が決定されます。
それでは、秘密保持義務とはどのような内容の義務でしょうか。
秘密保持義務とは、「職務上知りえた営業秘密や企業秘密を保持する義務」のことをいいます。
会社の顧客情報や財務情報、技術情報等は、「営業秘密や企業秘密」といえますので秘密保持義務の対象である「秘密」に該当するといえるでしょう。
一方で、労働者が会社に入社する以前から知っている財産的情報については「職務上知りえた」秘密とはいえません。また、労働者に関する財産的情報については「企業秘密」ではありませんのでいずれも秘密保持義務の対象外であると言えます。
労働者が秘密保持義務に違反しているのかどうかは自分で判断できるのでしょうか。
また、秘密保持義務に違反しているとされた場合についても説明していきます。
労働契約上、労働者は労働契約に付随する信義則上の秘密保持義務を負っています。
一般的に、明示の特約や就業規則の定めにかかわらず秘密保持義務は発生すると考えられています。
就業規則に定める理由
しかし、労働契約上の秘密保持義務が示す「秘密情報」の範囲は不明確ですので、就業規則で規定することであらかじめ秘密保持義務の内容が具体化されている場合もあるでしょう。
秘密情報の定義の仕方について、会社が保有する「一切の情報」と網羅的に定義することも少なくありません。しかし、義務の対象が不明確ですので事後的に労使間で秘密該当性について紛争になる可能性もあります。
そこで、秘密情報の定義に加えて、特に秘密保持が重要な典型例を列挙して規定するという定め方もあります。このような規定であれば、労働者も列挙事項に準ずるものが秘密の対象であると容易に判断することができるようになるでしょう。
例えば、使用者が有する「〇〇製品及びその構成部分である〇〇に関する開発及び製造方法、その他一切の情報」といったような定め方です。
また、形式的には秘密情報に該当するように思えても、そのような厳重な取り扱いは必要ないような情報については例外規定として義務の範囲から除外するという「例外規定」を設けるという方法もあります。
就業規則により秘密保持義務が定められている場合には,それに違反した労働者に対しては、使用者から懲戒処分や解雇といった制裁が課されたり、損害賠償請求がなされたりします。
使用者からの履行請求・差止請求についても,就業規則や個別的な契約により義務の内容が特定されていれば可能であると考えられています。
労働者が自己に対する嫌がらせ問題の証拠を示すために企業秘密を弁護士に交付したケースについて,秘密保持義務違反の成立を否定した裁判例があります。(東京地裁判決平成15年9月17日・労判858号57頁)
なぜ否定されたのか
裁判所は以下のように判断しました。
本件において秘密保持義務違反が否定されたのは、秘密を開示した相手が弁護士であり、無断で情報開示をしないように確約させていること、そして労働者には不当な目的がなかったと認定されていることが理由であると思われます。
秘密保持義務が労働契約関係が終了した後も課され続けるかどうかという点には議論があります。
信義則上、退職後も秘密保持義務が課され続けるという見解もあります。
しかし、労働契約法上の明確な根拠が必要であるという見解が多数を占めています。
なぜ根拠が必要なのか
なぜなら労働契約上の義務はその契約の終了とともに終了するのが原則です。
また、後述する不正競争防止法が不法行為の特殊類型として信義則上の秘密保持義務が法定されています。
このような法律の趣旨からすると、退職者に秘密保持義務を負わせるには特約・就業規則の定めなどの明確な法的根拠が必要であると考えられるからです。
労働者は、在職中であると退職後であるとを問わず、秘密保持義務違反については、不正競争防止法の適用を受ける可能性があります。
不正競争防止法は、労働契約関係の存続中・終了後に労働者が行う営業秘密の不正な使用・開示について、救済措置を設けています。
不正競争防止法上、「営業秘密」とは「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。(不正競争防止法第2条6項)
前述の①営業管理性、②有用性、③非公知性の3要件を満たす秘密に限定されています。
労働者が使用者から示された「営業秘密」を「不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的」で使用ないし開示する行為は、「不正競争」の一形態として規定されています。(不正競争防止法第2条1項7号)
上記のような労働者の主観は図利加害目的といわれます。
不正競争に該当すると判断された場合には、会社には「差止請求」が認められます。(不正競争防止法第3条1項)
また、侵害の行為により生じたものの「廃棄」・侵害の行為に供した設備の「除去」(同法第3条2項)、「損害賠償請求」(同法第4条)も認めらています。
また、会社の営業上の信用を回復するために必要な措置を裁判所に命じてもらうこともできます。(同法第14条)
また、営業秘密侵害罪として、10年以下の懲役や2000万円以下の罰金などの刑事罰の対象にもなります。(不正競争防止法第21条1項7号等)
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。