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セクハラ被害を受け加害者や会社に慰謝料を請求する際、慰謝料はどのくらい請求すればいいか、わからない方は多いと思います。
今回の記事では、実際の裁判例を中心にセクハラ行為の内容別に慰謝料の相場を解説します。また、裁判を通さず直接慰謝料請求する場合の注意点も紹介します。
目次
「セクハラで慰謝料を請求する」という話をよく耳にしますが、慰謝料はどのような場合に請求できるのでしょうか。まずは、セクハラと慰謝料の定義について確認しましょう。
一般的にセクハラとは、相手の意に反する性的言動のことをいいますが、男女雇用機会均等法では、職場におけるセクハラを下記のように定義しています。
「職場で行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること」
また、セクハラは対価型と環境型の2種類に分類されています。
参考:厚生労働省「職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です」
慰謝料とは精神的苦痛に対する損害賠償です。損害賠償の対象は、身体やモノ、経済上の利益に対する損害などであり、慰謝料は損害賠償の一種といえます。
また、損害賠償を受けるには、相手方の違法な行為によって損害を被ることが要件です。つまり、違法なセクハラ行為によって精神的苦痛(損害)を受けた場合に、慰謝料を請求できます。
セクハラ被害にあった場合の慰謝料の請求先は、加害者または会社です。
加害者は当然ですが、会社にも慰謝料を請求できる場合があります。会社には従業員の安全と健康を守るために「安全配慮義務」と「環境配慮義務」があるため、その義務を果たさないと会社に債務不履行責任を問うこともできるからです。
また、男女雇用機会均等法では、会社に対し「職場におけるセクシュアルハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置」を義務付けています。
それでは、具体的な慰謝料の相場を裁判事例を通してみていきましょう。
比較的、軽微なセクハラ行為に対する慰謝料は、数万円から数十万円です。
卑猥な言動、わいせつ行為などを1回、または少数回行ったケースが該当し、程度によって慰謝料は異なります。
慰謝料 | セクハラの内容(裁判所名・判決日・内容) |
---|---|
10万円 | 大阪地方裁判所(平成10年10月30日) ・出張先のホテルで女性部下をベッドに誘った。 |
30万円 | 宇都宮地方裁判所(平成29年10月25日) ・懇親会で女性部下の身体に触れたり、耳元に口を近づけた。 |
30万円 | 高松地方裁判所(令和元年5月10日) ・手や腰に触れたり、スカートの裾を持ち上げた。 ・わいせつな画像を見せたり、卑猥な言動を行った。 |
50万円 | 東京地方裁判所(平成8年4月15日) ・懇親会の帰りに、校長が女性教師に対して性器をこすりつけるなどのわいせつ行為を行った。 |
50万円 | 大阪地方裁判所(令和2年2月21日) ・出張中のホテルに向かう途中、愛人となるよう求める発言を行った。 ・別室を希望する被害者の意向を拒み、同室で過ごすことを強制しようとした。 |
60万円 | 東京地方裁判所(平成29年9月22日) ・口論の際、女性の胸を触った。 ・後日、女性に対し「胸を触ったことをばらしたのか」と問い質した。 |
60万円 | 東京地方裁判所(平成28年8月24日) ・女性をラブホテルに連れて行き、ホテル室内で抱きつきキスをした。 ・ただし、力ずくでホテルに連れ込んだわけではなく、女性の懇願で短時間で退室した。 |
労働基準法の違反行為があった場合や、セクハラ行為が軽微と言えない場合の慰謝料の相場は、100万円を超えることもあります。具体的には下記に該当するケースです。
慰謝料 | セクハラの内容(裁判所名・判決日・内容) |
---|---|
110万円 | 大阪地方裁判所(平成10年12月21日) ・カラオケで、女性をソファーに押し倒し、キスしたりスカートをめくろうとしたり、胸のボタンをはずした。 |
120万円 | 東京地方裁判所(平成30年1月16日) ・6年以上の長期にわたり、卑猥な発言やお尻を触るなどの行為を繰り返し行っていた。 ・財布やスマートフォンに勝手に触った。 |
150万円 | 仙台地方裁判所(平成30年4月24日判決) ・かつて親密な関係にあった上司が関係を拒む女性部下に対し、発言・メール・電話などで自分の意向に従うよう強要した。 ・被害女性はうつ病を発症。 |
170万円 | 大阪高等裁判所(平成17年4月22日) ・宗教法人である教会の役員が教会に就職した女性に対し、2年間にわたり卑猥な言動や身体的接触を行った。 ・被害女性は退職し、再就職先も体調不良で解雇される。 |
250万円 | 岡山地方裁判所(平成14年5月15日) ・肉体関係を迫るなどした上司役員を会社に訴えた女性部下に対し、悪い噂を流す、降格・減給を行った上、仕事を取り上げるなどした。 ・被害女性は退職、被害女性に協力した別の社員も降格・減給された後に退職となる。 ・被害女性に約220万円、協力した別の社員に約30万円の慰謝料。 |
強制わいせつや強姦など刑法に抵触する犯罪行為があった場合の慰謝料の相場は、300万円を超えて高額になることもあります。
また、慰謝料請求が高額になるほど、請求先は加害者だけでなく会社が加わるケースが多くなります。大きなセクハラ行為を防げなかった会社の使用者責任が問われることと、賠償金額が高額となり加害者個人では負担できないことが一因だと考えられます。
慰謝料 | セクハラの内容(裁判所名・判決日・内容) |
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300万円 | 東京高等裁判所(平成24年8月29日) ・店長に強姦された被害女性が、店長と会社・代表者に対し慰謝料を請求。会社は使用者責任を問われた。 |
330万円 | 千葉地方裁判所(平成10年3月26日) ・他の従業員らと食事の後、会社社長が女性従業員を無理やりホテルに連れ込み強姦した。 |
765万円 | 岡山地方裁判所(平成14年11月6日) ・上司Aが勤務中に契約社員女性にわいせつな発言を繰り返し、女性は体調を崩し通院した。 ・相談を受けた別の上司Bが飲食後に女性宅に入りわいせつ行為を行い女性はPTSDを発症した。 ・会社はAのセクハラ行為に対し調査委員会を設置するなどしたが、セクハラ防止に向けた十分な対応をとっていなかった。 ・Aと会社に対し約55万円、Bに対し約710万円(逸失利益約524万円を含む)の損害賠償命令が出た。 |
1,100万円 | 大阪地方裁判所(平成11年12月13日) ・元大阪府知事が選挙運動員の大学生女性に対し、選挙用ワゴン車の中でわいせつ行為を行った。 ・強制わいせつとセクハラ行為で民事訴訟を起こした被害女性に対し、元大阪府知事は「事実無根」と否定し虚偽告訴容疑で逆告訴した。 ・名誉毀損行為も含めて損害賠償請求が認められたあと、強制わいせつ罪で在宅起訴され知事を辞職した。 |
慰謝料は裁判をしなくても請求できます。被害者が加害者や会社に直接行ったり、それぞれが弁護士を立てて話し合い示談になることもあります。
裁判例も数多くあるので、双方の弁護士が話し合えば裁判例に近い相場に落ち着くことも考えられますが、実際の慰謝料はケースごとに大きく異なります。
法律知識のない被害者が会社と直接交渉をした場合、会社の言いなりになって慰謝料が極端に少なくなるケースもあります。全く慰謝料を受け取れないケースや、話し合いにすら応じてもらえないこともあるでしょう。
このような場合には専門家に相談しましょう。労働組合、弁護士、労働基準監督署の総合労働相談コーナーなどのほか、内容によっては下記も検討しましょう。
セクハラ行為を公にしたくない場合など、会社が早期解決を強く望む場合、裁判での慰謝料の相場を大幅に上回る慰謝料をもらえるケースもあります。
会社が示談金を上乗せすることで、裁判を避けたり事件が公にならないようにすることがあるからです。金銭的なメリットがある反面、セクハラ行為の責任や加害者への制裁が曖昧になる恐れもあるため、慎重に検討しましょう。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。