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あなたは会社の就業規則を見たことがありますか。見ようと思っても見れない場合、会社の規模によっては違法となる場合があります。
労働条件が記載されている点で、労働者にとって就業規則は重要です。この記事では、就業規則とは何か、就業規則がない場合に想定される問題ついて解説します。
目次
まず、就業規則とはどのようなものなのでしょうか。労働者が使用者と雇用契約書を作成している場合は不要なのでしょうか。
以下、解説していきます。
「就業規則」とは、使用者が作成した定形的に労働条件を定めた書面のことをいいます。
例えば、労働時間や給与、休暇や退職・解雇についての一般的なルールが定められていることが多いと思います。
ただし、就業規則の内容は使用者が好き勝手に定められるものではありません。
最高裁判所では、就業規則は当該事業所内での社会規範にとどまらず、法的規範としての性質が認められると判示しています。
就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている。
最大判昭和43年12月25日(民集22巻13号3459頁・判時542号14頁)全文
つまり、少なくとも就業規則が法的に拘束力を持つためには「合理的な内容」でなければなりません。
就業規則を作成する際には、必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項というものが法律で定められています。(労働基準法第89条各1~3号)
代表的な絶対的必要記載事項は以下のとおりです。
絶対的必要記載事項を欠く就業規則は無効です。
相対的必要記載事項とは、使用者が一定の制度を設ける場合には必ず記載しなければならない事項です。(労働基準法第89条各3号の2~10号)
退職金制度やボーナスや災害補償に関する記載は相対的必要記載事項になりますのでそのような制度を設けていない場合には、記載されていなくても就業規則としては効力を有することになります。
そして、絶対的必要記載事項でも相対的必要記載事項でもない事項は任意記載事項と言われ、自由に記載することができるものをいいます。
労働契約法第12条では、労働者と使用者の間で合意した労働契約の内、就業規則で定めている労働条件の水準に満たないものは、無効とする強行的な効果があります。
また、就業規則には無効となり無くなってしまった労働契約の労働条件の部分を就業規則が直接補完するという直律的な効力があります。
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
このような就業規則の効力は最低基準効といわれます。
また、「就業規則が法令又は労働協約に反する場合には,当該反する部分については」就業規則を適用しないと規定しています。(労働契約法第13条)
就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
労働契約法第13条(法令及び労働協約と就業規則との関係)
労働契約法の上記規定によると、大まかには
法令・労働協約 > 就業規則 > 労働契約
という関係にあるということができます。
それでは就業規則の作成が義務付けられている会社はどのような会社なのでしょうか。
労働基準法第89条には、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」と規定しています。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
労働基準法第89条(作成及び届出の義務)
「常時10人以上の労働者」とは、正社員の頭数だけを指しているわけではありません。パートや契約社員として働いている労働者も含まれます。
また、労働者の計算は事業所単位で行います。会社全体の常時雇用従業員数ではないので注意が必要です。
会社全体では10人以上の労働者を雇用していても事業所単位で10人未満であれば就業規則の作成・届出義務はありません。他方で複数の事業場それぞれで10人以上の労働者が働いている場合には各事業所ごとに就業規則を作成しそれぞれの管轄の労働基準監督署に届け出ることが必要になります。
上記のように就業規則の作成と届出が義務付けられているにもかかわらず、その義務に違反した使用者には30万円以下の罰金が科せられます。(労働基準法第120条1号)
就業規則を労働者に周知することは使用者の義務です。
法律には具体的な周知の方法が例示されています。
法律には「使用者は、…就業規則…を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」と規定されています。(労働基準法第106条1項)
厚生労働省令で定める方法としては、「磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること」が定められています。(労働基準法施行規則第52条の2第3号)
法第百六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
労働基準法施行規則第52条の2
この義務に違反した場合には30万円以下の罰金という罰則も科されます。(労働基準法第120条1号)
また、労働契約法第7条では労働契約において就業規則が拘束力をもつためには、「周知」されることが効力要件としても定められています。
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
労働契約法第7条(労働契約の成立)
労働契約法における周知の方法は、必ずしも労基法上の周知義務の履行と同じ方法による必要はなく、「実質的に、労働者に就業規則の内容を知りうる状況が存在していればよい」と解釈されています。
したがって、労働者が就業規則を見たいと思っても見ることができない場合や使用者が拒否するような場合には就業規則の内容に労働者は拘束されないということになります。
ここまで就業規則が必要な場合となくても違法にならない場合を説明しました。
就業規則がないことで労働者が使用者との間でトラブルに発展する場合も考えられます。
ここでは考えられるトラブルをケースごとに考えてみましょう。
賃金については就業規則内に規定する場合と、賃金規程・給与規程という別規程で定める場合もあります。
賃金については基本給、各種手当、時間外や休日・深夜労働の際の割増賃金等の基本的な条件が記載されているか確認しておくべきでしょう。
退職金については設けるかどうかは会社が自由に決められます。
しかし、退職金は功労報償的な性質とともに賃金の後払い的性質もあります。退職金制度が規定されていない一方で、慣行として退職金の支給が定着していたような場合には退職金を請求できる余地が残されています。
就業規則において退職に関する事項は絶対的記載事項です。
使用者は退職を申し出る期間やそのときに必要となる手続を詳細に規定することが求められます。
仮に就業規則がなく雇用契約書でも未確定だった場合、退職しようと考えている労働者はどうすればよいのでしょうか。
使用者からは、数か月以上前に申告してもらわないと代わりの人員確保や引継ぎ等が難しいので認められないというようなことを言われるかもしれません。
しかし就業規則に記載されていない以上使用者の発言に労働者が拘束されることはありません。
民法では、退職の申入れについて以下のように規定しています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法627条1項
したがって、退職をしたい労働者は退職を伝えてから14日以降いつでも退職することができる可能性が高いです。
懲戒処分とは、使用者が企業秩序を維持するために,それを侵害した労働者に対して制裁を課すものです。
しかし、懲戒処分を行うには根拠となる規定が必要であり、判例も就業規則の規定に基づかない懲戒処分を無効と判断しています。(最判平成15年10月10日(労判861号5頁))
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。