パワハラ防止法が2020年6月から適用開始、法律のポイントを解説

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

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働く人であれば誰もが1度は耳にしたことのある「パワハラ」。

 2020年6月よりこのパワハラに関する重要な法律、通称パワハラ防止法の適用が開始されています。

 パワハラ防止法とはどのような内容なのか、労働者が確認しておくべきポイントをご紹介します。

パワハラ防止法制定の背景と新しい法律の適用開始

パワハラ防止法が制定された背景やその内容について確認しましょう。

パワハラ防止法制定の背景

 実はパワハラ防止法とは通称で、正式には「改正労働施策総合推進法」を指します

 もともと存在していた「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という法律が改正され、パワハラの防止に関する規程が新設されたため「パワハラ防止法」と呼ばれています。

 パワハラ問題が注目され始めたのは2000年代初期と言われ、パワーハラスメント、という言葉もそのころに生まれたと言われています。

 しかし、実は日本には直接パワハラを禁止する法律が無く、パワハラ行為があったとしても誰にどのような責任や違反行為があるのかは明確ではありませんでした。

 さらに言えば、そもそも何がパワハラなのか、パワハラの定義自体も法律には定めがなく、このことはパワハラの認定を難しくする要因にもなっていました。

 一方で、社会的全体でのパワハラ被害の件数は増加傾向にあり、2016年に厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した者は32.5%であり、また、都道府県労働局における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も2018年度には8万件を超え、対策は緊急の課題となっていました。

パワハラ防止法の制定と適用の開始

 このような背景から、2019年5月、パワハラ防止法が制定されました。

 パワハラ防止法ではパワハラに関する国、事業主及び労働者が取るべき行動や責務が明記されましたが、特にその中でも事業主には「雇用管理上の措置」として、パワハラを防止するための必要な措置を取ることが「義務化」されました。

 義務化の内容については次の章で触れますが、各企業がこの義務に対応する期限として企業の規模によってつぎのとおり期日が定められました。(このように、法律が制定・改正された日とは別に、実際に適用される日が別に定められることがあり、その日を「施行日」と呼びます)

 大企業:2020年(令和2年)6月1日から施行

中小企業:2022年(令和4年)4月1日から施行

 ※中小企業の範囲は以下の表のとおり業種毎に定められています。

業種資本金又は出資の総額常時使用する従業員の数
小売業5000万円以下 50人以下
サービス業5000万円以下 100人以下
卸売業 1億以下100人以下
その他の業種 3億以下 300人以下

 既に大企業ではこの法律に基づく義務化が適用されており、中小企業も2022年から適用開始予定となっています。改めて自身の会社がパワハラに対して法律に沿った対応がとられているか確認してみると良いでしょう。

パワハラ防止法のポイント(定義、事業主の義務、パワハラの類型)

それでは続いて、パワハラ防止法の中身について解説します。

パワハラの定義が法律で明記された

 パワハラ防止法ではパワハラに関する事業主の義務として次のような規程が新設されました。

雇用管理上の措置等

第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

改正労働施策総合推進法第第三十条の二

 この規程に関連し、これまで法律上定義されていなかった「パワハラ」について、厚生労働省はパワハラ防止法の改正と併せて発表した『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』で、職場において、以下の1~3.の全てを満たすものがパワハラであると定義されました。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

 注意が必要なのは、1.の「優越的な関係」については、上司から部下という外見上の役職の違いだけでなく、同僚や部下であっても業務上必要な知識や経験が豊富な者が行う言動や、役職の違わない同僚複数人の集団から個人に向けた言動などについても「優越的な関係」に当たるとされています。

 また正社員だけではなく、パートタイム従業員や直接雇用でない派遣社員などのいわゆる非正規雇用の人ももちろん対象となります。

パワハラのパターン

 厚生労働省が発表した指針では、パワハラの代表的な6つの類型が示されました。

(イ) 身体的な攻撃(暴行・傷害)

(ロ)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

(ハ)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

(ニ)過大な要求

  (業務上明らかに不要なことや遂行 不可能なことの強制・仕事の妨害)

(ホ) 過小な要求

  (業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや 仕事を与えないこと)

(ヘ) 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

また、併せてパワハラに該当すると思われる例・該当しないと思われる例が記載されました。

 パワハラが該当すると考えられる例

 例えば、精神的な攻撃については以下のような行為がパワハラに該当します。

①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。

②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。

③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。

④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

 パワハラが該当しないと考えられる例

パワハラが該当しないと考えられるものは以下のケースです。

①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。

②その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。

 ただし、この類型で示された行為だけがパワハラでそれ以外はパワハラでは無い、ということではありません。指針においても『個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、これらの例は限定列挙ではないことに十分留意』とされています

パワハラ防止法における事業主の義務

 パワハラ防止法ではパワハラの防止に向けて事業主が取るべき措置が義務化されました。

事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

 ① 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること

 ② 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること

 ⇒事業主はパワハラがどのようなもので、それを行ってはならないことを社内の規程等で明記し労働者に周知・啓発する義務があります。

相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

 ③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

 ④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること

 ⇒事業主はパワハラ相談に対応する相談窓口を設置する義務があります。

職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 ➄ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

 ⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

 ⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと

 ⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること

 ⇒事業主は、パワハラ相談があった場合問題を放置せず速やかに対応する義務があり、また再発防止策を講じる義務があります。

そのほか併せて講ずべき措置

 ⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること

 ⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 ⇒事業主は労働者が安心してパワハラの相談等できるようにプライバシー保護の取り扱いや不利益な扱いをされない旨をあらかじめ規定等で定め、労働者に周知す義務があります。

 このように法律で企業にパワハラ対策が義務化されたのは初めてのことで、今後各会社で規定の整備や相談窓口の整備が一気に進むと考えられます。

 また、特に⑩「相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること」については法律上「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と明記されました。

 パワハラ被害を相談したり、パワハラ被害者のためを思って行動した結果、更に不利益な扱いを受けるようなことは絶対にあってはならない事ですから、法律上も明確にそのような行為は禁止しているということになります。

【参考】:「職場におけるハラスメント関係指針」厚生労働省

パワハラ防止法に違反したら罰則は?

 先に述べたように、法律上の義務や違反事項が無かったことに比べて、パワハラ防止法の制定で事業主の責任が明確になったことは大きな前進です。

 しかしながらこの法律で「義務」や「禁止」と定められた点について、もし事業主がそれらに違反したとしても「罰則」の規程はありません

 罰則が無ければいくらでも違反する企業がでるのではないかと心配になってしまうかもしれませんが法律上は別に規定が設けられ

『厚生労働大臣は、労働施策総合推進法の施行に関し必要があると認めるときは事業主に対して、助言、指導または勧告をすることができる』(労働施策総合推進法33条1項)』

『事業主が勧告に従わない場合には、その旨を公表する(労働施策総合推進法33条2項)』

 というように罰則が無くとも法律が守られていないような時は指導や勧告を受け、更にはそれに従わない事実が公表されているような仕組みが導入されました。

 最近はパワハラ事案があるとニュース等でも報道され、会社にとってもパワハラ対応を怠っていると企業イメージが損なわれるため、このような指導や公表制度は会社への牽制としては一定の効果があると思われます。

 また、もし自分がパワハラ被害を受けている会社が法的にも指導や勧告を受けている状況になれば会社のパワハラに対する責任は明らかですので、労働者にとってはこのような規程が整備されていることもパワハラと戦ううえでは重要なポイントと言えます。

労働者にとってパワハラ防止法で抑えておくべきポイント

自分の会社が法律に沿った対応をとっているか確認する

 パワハラ防止法では、事業主にパワハラについての規定を整備すること、従業員に周知・啓発すること、相談窓口を設置することなどを「義務化」しています。

 自分がパワハラにあっていると感じたり、周りでパワハラかもしれないと感じる出来事があったときには、会社での出来事は最終的には加害者個人だけでなく、会社としての対応を求めていくことになります。

 その際に法律上の義務を会社が怠っているとすれば、個人の問題ではなく会社としての責任も認められる可能性も高まります。日頃から会社がパワハラ防止に対してどのような取り組みを行なっているか、法律に照らし合わせて点検しておくと良いでしょう。

パワハラに当たるかどうか調べてみる

 自分や周りで起きていることが「何かおかしいけど、パワハラとまで言えるかどうか。。」と思ったら、パワハラ防止法から調べてみると様々なパワハラのパターンが説明されているため、どのような行為がパワハラに当たるか考えるヒントになります。

 ただし、自分なりに調べて「これはパワハラではないんだな」と結論づける必要はありません。法律はあくまで目安として、自分が苦しいと感じていることがあれば、信頼できる同僚や上司、労働基準監督署などの相談窓口、弁護士など法的なアドバイスをもらえる相談相手に相談してどのように対応すれば良いかを考えるようにしましょう。

監修者


みんなのユニオン

執行委員岡野武志

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みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。

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