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セクハラをされた、泣き寝入りしないで訴えたい!こう思ったら、「セクハラで損害賠償を請求できる?」「セクハラを争点にするためには?」といった疑問が生じますよね。
セクハラ被害にあったとき、裁判をすることは可能なので、悪質なものだと強制わいせつ(刑法第176条)等で罪に問えますが、社会全体としてセクハラというワードに敏感になっている今、そこまで明らかなケースは少なくなってきているのではないでしょうか。
悪質なセクハラ以外は我慢するしかないのか?というと、そうではなく、民法上で損害賠償を請求できる道が残っています。
この記事では、セクハラで訴えるための基本的な知識を確認しつつ、過去のセクハラ裁判の中でも、民法上の損害賠償が認められた事例を紹介していきます。
目次
セクハラは、近年ではメジャーな労働問題ですが、日本で初めてセクハラが争点となった裁判が行われたのは、約30年前の話です。
そこから月日が経ち、セクハラが社会問題として注目されてはきましたが、セクハラの相談件数は高止まりの状態です。
セクハラをされたらどうすればよいか。多くの方が悩むこの問題ですが、この記事の最初に述べた通り、民法上で損害賠償を請求できる道があります。
しかし、民法上でセクハラ自体が定義されているわけではありません。
それではまず、セクハラがどの法律でどう定義されているかの確認からしていきましょう。
セクハラは、英語のセクシュアル・ハラスメントを略した言葉で、性的嫌がらせを指します。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称:男女雇用機会均等法)上、会社はセクハラの防止措置を義務付けており、対象となる職場のセクハラを大きく2種類に分けたうえで以下のように定義しています。(男女雇用機会均等法11条)
職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること
性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること
しかし、男女雇用機会均等法では、セクハラによる損害賠償を請求できる規定はありません。
それでは、民法上で損害賠償を請求したい場合、どうすればよいのでしょうか。
民法を根拠法としてセクハラを訴える場合、使用者責任と不法行為責任を問うことが考えられます。
使用者責任からみていきましょう。
使用者責任は、民法第715条第1項に規定があります。
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
民法第715条第1項
簡単に言うと、「事業の執行」すなわち仕事中、もしくはその延長線上で労働者が誰かに損害を与えてしまったら、会社が責任を負うということです。
この規定を素直に読むと、職制上の優越的地位を利用して部下にセクハラをした結果、損害が発生したような社内セクハラはどう扱われるかが気になるかと思いますが、こういったセクハラでも使用者責任を問えるケースが多いです。
ちなみに、ただし書部分に、会社が免責できる場合についての規定がありますが、このただし書による免責を実際に認めたケースはほぼありません。
次に、不法行為責任です。
不法行為責任は、民法第709条に規定があります。
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
民法第709条
簡単に言うと、セクハラによって「法律上保護される利益」、つまり名誉やプライバシー等の人権が侵害され、不法行為が成立した場合、損害賠償を請求できるという規定です。
使用者責任と違い、セクハラをした本人に請求ができます。
この規定で注意したい点は、セクハラの行為のすべてについて不法行為が成立するとはいえないという点です。
一律に明確な基準があるわけではなく、個々の具体的なケースに応じて、総合的に評価されます。
セクハラについて、民法上、不法行為責任(民法第709条)、使用者責任(民法第715条)を問えることは前述しました。
過去の裁判例を確認して、セクハラ裁判についてより理解を深めましょう。
それでは、職場で起きたセクハラに対する裁判について、みていきましょう。
出版社の編集長が、会社内外の関係者に対し、部下でありかつ対立関係にあった従業員Aの異性関係が乱脈であるかのように非難するなどして、Aの評価を低下させた。
結果、Aは退職を余儀なくされた。
Aは、会社(出版社)と編集長に対して、損害賠償を請求した。
この裁判は、福岡地裁で平成4年4月16日に判決(確定)が出ています。
まず、Aの異性関係を中心とした私生活に関する非難等が、編集長とAの対立関係の解決手段として用いられたことから、不法行為(民法第709条)の成立が認められています。
そして、この対立について、会社は職場環境を調整するよう配慮する義務があるにもかかわらずそれを怠っており、さらに、従業員Aが退職することを利用して丸く収めようとした点からも不法行為が成立し、この不法行為について、会社の使用者責任(民法第715条)を認めています。
結果、会社と編集長に対して、損害賠償として165万円(うち15万円は弁護士費用)が認められています。
セクハラが勤務時間外で起きた場合でも、民法上の損害賠償請求が認められたケースがあります。
従業員Aは、会社が開催した飲食会(いわゆる飲み会)の帰り、タクシーに同乗した上司Bからセクハラを受けた。
Bの部下であったAは、精神的ショックから欠勤するようになり、セクハラ被害から半年後に退職。
その後会社と上司Bに対して損害賠償を請求した。
この裁判は、東京地裁で平成15年6月6日に判決(確定)が出ています。
まず、上司Bのセクハラ行為は、セクハラ被害にあった部下Aの人権を侵害するものであるとして、不法行為(民法第709条)の成立を認めました。
そして、会社に対しても、このセクハラ行為は、会社の業務の延長において、上司としての地位を利用して行われたものであり、職務と密接な関連性があるため、「事業の執行」につき行われたというべきであるとして、使用者責任(民法第715条)の成立も認めています。
この事案で、会社の業務の延長と判断されたポイントは、以下の通りです。
もう少しこの事例について細かい話をすると、このセクハラ行為は三次会の帰りに行われており、「二次会は一次会の最高責任者である上司Bの発案で、一次会の参加者全員が参加している」、「上司Bが三次会についてくるようAに声をかけている」といったことも考慮されています。
結果、会社と上司Bに対して、損害賠償として241万円(うち20万円は弁護士費用)が認められています。
職場でのセクハラは、労働者の個人の尊厳を不当に傷つける社会的に許されない行為であり、人権侵害です。
しかし、セクハラ被害にあった方にとっては、相談しにくい内容であることも事実です。
この記事では、民法上の損害賠償を請求するための基礎知識を紹介しました。
セクハラを受けた、もしくは受けているが、どうすることもできないので泣き寝入りするしかない‥そのように辛い状況であれば、法的措置の検討もお勧めします。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。