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「仕事でミスした分は減給しとくから」と言われ、実際に給料から天引きされたご経験はないでしょうか。
実は、仕事でミスしたことによる減給は違法である可能性があります。
この記事では、仕事上のミスによる減給が許されるのか、許されるとしていくらまでなのか、ということについて詳しく解説していきます。
まず、減給がどのような理由・法律構成でなされているのか知る必要があります。
「仕事上のミス」と一口に言っても、類型的には以下の2つに分けられます。
これらは、ミスによって損害を被った相手が会社か・会社以外の第三者かという点で分けられます。
例えば、飲食店での勤務中にコップを割って使えなくしてしまった場合は、コップの代金ぶん会社に損害を与えているということになります。
一方で飲み物の入ったコップを割ってしまい、客の服を汚してしまったような場合は、クリーニング費用ぶん第三者に損害を与えています。
いずれの場合であっても、減給に繋がる可能性があります。
反対に会社や第三者に損害が生じない・損害がごく僅かなときであって、労働者の行為が後に述べる懲戒事由にあたらない場合は、ミスによって減給されることはありません。
仕事上のミスにより減給がなされる流れには、以下の2つの種類があります。
この区別は、減給ができるかできないか、ならびにいくらまで減給できるかということに関わってきます。
この2つのどちらにあたるかは、多くの場合は給与明細の「控除」欄に減給の金額や理由が書いてあるため、そこから見分けることができます。
まず損害賠償請求による減給とは、債務不履行責任(民法415条、416条)・不法行為責任(民法709条)・第三者に対する損害賠償の後の求償(民法715条1項、3項)に基づき、損害賠償請求されることで結果として減給されるものです。
一方で懲戒処分による減給とは、労働者がミスをしたことによる制裁として減給を行うことです。
原則として、仕事上のミスによる損害賠償請求のため給料を天引きする形で会社が減給してくるのは違法です。
一方で、給料とは別に会社が損害賠償請求をすることは違法ではありませんが、会社に与えた損害全てを支払わなければいけないわけではありません。
それぞれ、どのようなものかを解説していきます。
労働基準法24条1項では、賃金は労働者に全額支払われなければならないと定められています。
これは、労働者の生活基盤である賃金は勝手に減らされることなく、働いたぶんだけ全額支払われる、ということを保障しています。
よって、労働者がなんらかのミスで会社に損害を与えたとしても、その損害を相殺・補填するといった名目で給料を減らすことは違法となります。
なお24条1項では例外的に天引きが許される場合も定めていますが、これは所得税や社会保険料、労働者の福利厚生のための積み立てなどを想定したものです。
賃金を全額支払うかわり、別途会社が損害賠償請求をしてきても、それは違法ではありません。
ですが、会社側は労働者のおかげで利益を得ているのであり、労働者によって生じた不利益だけは責任をとらずに労働者に請求する、というのは不合理です。
よって仕事上のミスで損害が生じたとしても、労働者の責任はある程度制限されます(信義則・民法1条2項)。
具体的には、どのくらい責任制限がなされるかは、以下のような要素で決定します。
例えば、労働者が意図せず、ちょっとしたミスで損害を発生させてしまったような場合には、責任が認められることはほとんどありません。
一方で会社にわざと損害を与えてやろうとするような故意があったり、不注意が著しいような場合は、損害全額を請求されてもおかしくありません。
また、労働者が本来の職務内容にない業務を善意でやっていたときに会社に損害を生じさせてしまったような場合も、責任は制限されやすいでしょう。
最後に、会社がきちんと指示を出していなかったり、保険に加入しておくなど損害防止措置をとっていなかったような場合などミスの起こりやすい環境を作っていたような場合も、労働者の責任は制限されます。
労働者に故意や重過失がなく、一般に業務の中で起こりうるようなミスの場合は、会社から損害賠償請求されたとしても、認められることはまれです。
損害賠償請求が考えにくいミスの具体例としては、以下のようなものがあります。
労働者の重過失によって生じたミスについては、発生した損害の1/4、1/2といった風に軽減された損害賠償請求が認められる恐れがあります。
軽減された損害賠償請求がなされる具体例としては、以下のようなものがあります。
社員の過失の程度が大きいほど、より損害の責任が認められる範囲も大きくなります。
労働者がわざと、あるいは会社に損害を与えるであろうことを了承していながら、結果として会社に損害を生じさせたような場合は、生じた損害の全額が請求される可能性もあります。
損害全額の賠償請求が認められうる具体例としては、以下のようなものがあります。
一般的なミスにおさまらないような悪質な行為や会社への背信行為をしてしまった場合、発生した損害全額を会社から請求されることもあります。
企業によっては、仕事上のミスが懲戒事由に該当するとして、減給処分することがあります。
懲戒処分の減給は、労働者を保護するために労働基準法で制限されています。
では、あなたの仕事上のミスによる懲戒処分としての減給は、適法なのか、それとも違法なのか確認していきましょう。
懲戒処分をするには、就業規則に減給の制裁について定めていなければなりません。
多くの企業では就業規則があることでしょう。
ただし、常時使用する労働者の数が10人未満の事業所に関しては就業規則の作成は義務ではなく、任意です。
また、就業規則があったとしても、減給となる理由(懲戒事由)・減給の制裁(懲戒処分)の2つを定めていなければ、減給は違法です。
ですから、まず自社の就業規則に減給の制裁が明記されているかどうかを確認してみましょう。
労働基準法第91条には、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と制裁規定が制限されています。
つまり、懲戒処分における減給の制限は以下の2つです。
就業規則に減給の制裁についてあらかじめ定められているとしても、労働基準法で定められている上限を超える減給は違法となります。
減給に関する就業規則の有無や、制裁の減給に関する上限も確認し、それが適法の場合は、減給という処分は嬉しいものではありませんが、その現実を素直に受け止めましょう。
では、仕事上のミスによる減給が労働基準法に違反している場合は、どのように対応すればよいのでしょうか?
就業規則に減給の制裁に関する規定が明記されていない、又は上限を超えた金額が給料から差し引かれた場合は、労働基準法第91条に違反する違法行為として、労働基準監督署に会社の違法行為を相談・申告することができます。
労働基準法第101条には、「労働基準監督署は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。」
また、労働基準法第104条には、「事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督署に申告することができる。」と規定されています。
つまり、労働者から相談・申告を受けた後、労働基準監督署は事案に応じて、申告された会社を臨検や調査、尋問などを行います。そして、必要であれば、警察のように逮捕や検察への送検なども可能です。
仕事上のミスで減給された行為が、雇用主の違法行為であれば、労働者と雇用主の間で「紛争」が生じているということになります。
当事者の一方の申立てがあれば、その紛争を解決するために労働局による助言や指導などのサポートを受けることが可能です。
労働局は労働者の味方になり、減給したお金を労働者に支払うよう、雇用主に指導することでしょう。
労働局の紛争解決援助の申立は、裁判所の調停とは異なり無料で利用できるので、違法行為をされた労働者にとっては心強い味方と言えます。
労働基準監督署に行っても問題が解決しないのであれば、労働問題を専門とする弁護士や司法書士、社会保険労務士などに相談してみましょう。
労働者ひとりの力で問題を解決することは容易ではないので、早めに相談されることをおすすめします。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。