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解雇にはいろいろな種類のものがありますが、その中でも労働者の非違行為に対して科され、罰や制裁としての性質を有する懲戒解雇は最も強力なものです。
場合によっては懲戒解雇されると、長年の勤務に対する恩賞である退職金すら0になってしまうこともあります。
そのような懲戒解雇ですが、なぜ契約の一方当事者に過ぎない会社から罰を受けなければならないのでしょうか。
本記事においては懲戒解雇のなされる理由と、その性質や対処法についてまとめてみました。
目次
そもそも懲戒解雇とは法的に見てどのような性質のものなのでしょうか。ここでは、懲戒解雇の性質を説明していきます。
懲戒処分とは、「使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して科す制裁」と定義されますが、その制裁の効果としては戒告処分(口頭での戒め、注意)、停職処分、減給処分、降格処分のように様々なものが予定されています。
懲戒解雇はこの懲戒処分の中でも最も重い制裁となります。
会社は懲戒権を有しており、その処分には様々なものがあります。
しかしながら、なぜ契約の一方当事者でしかない会社からこのような制裁罰を受けることになるのかは理論的に難しいところです。
例えば個人間の売買を想定しましょう。個人間の売買において買い主が何かしらの非違行為をしたとしても、それは解除(民法541条など)や取消(民法96条など)、損害賠償(民法415条1項)などの原因になることはあっても、売り主から「お前はけしからん、しばらく家にこもっとれ。」など何かしらの制裁を受ける謂れはありません。
このように売買契約や請負契約、賃貸借契約など様々な契約において契約の一方当事者から制裁を受けることは一般にはありません。
しかしながら、雇用契約(労働契約)において、懲戒処分は当然のごとく受け入れられています。それはなぜでしょうか。
この点について判例としては、労働契約の性質上、使用者は企業秩序を維持する権限があり、労働者は労働契約を締結することにより企業秩序遵守義務を負うとし、労働契約の性質上当然に懲戒権が発生するとしています。
しかしながら、労働契約の性質上、懲戒権が発生するとは言っても、懲戒処分が刑罰のような性質をあわせもつ以上、使用者は就業規則等で懲戒事由および懲戒の効果を明示しなければならないと解釈されています。(罪刑法定主義類似の要請)
このことは労働契約法上にも明文で表れています。以下の条文を見比べてみましょう。(どちらも労働契約法)
15条(懲戒) 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
労働契約法 第15条
16条(解雇) 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法 第16条
労働契約法15条と16条は似た構造をしていますが、唯一15条には「使用者が労働者を懲戒できる場合において」という文言があります。
これは解雇に関しては他の契約(売買契約や請負契約など)における「解除」と同様の効果を有しているのに対し、懲戒については労働契約特有の効果を有する少し変わったものであるためです。
この「使用者が労働者を懲戒できる場合において」とは就業規則などに懲戒事由とその効果について明示があることを指しています。
そこで使用者が懲戒処分を労働者に科す場合には一般に就業規則の根拠規定など明示されることが多いです。
懲戒解雇は懲戒処分であると同時に、解雇でもあります。
懲戒処分は労働契約法15条による制約を、解雇は労働契約法16条による制約(解雇権濫用法理)を受けますが、懲戒解雇はこの両方の規定により制約を受けることになります。
もっとも、労働契約法15条の客観的合理性と相当性を満たす懲戒解雇は、労働契約法16条の客観的合理性と相当性を満たす場合が多いので、ここではその前提で懲戒解雇が違法になる場合についてまとめていきます。
先に述べた通り、懲戒事由やその効果は就業規則などで明示される必要があります。
逆に考えると、懲戒解雇をされた際、就業規則を開示してもらい、そこにこれらのことが定められていなければ、懲戒処分としての解雇をすることはできません。
例えば、ある労働者が学歴詐称で懲戒解雇されそうになったとしても、それに該当しそうな懲戒事由が就業規則等に書いてない限り、その労働者は懲戒されないことになります。
(もっともこの場合、普通解雇(労働契約法16条)される可能性は高いです。)
しかしながら、懲戒事由について一部でも定めている会社は、「その他、各号に準ずるような非違行為があった場合」など、抽象的網羅的に悪質性の高い行為を懲戒事由としているようなところが多いので、このような問題が生ずるのは基本的に就業規則にほとんど何も書かれていない会社に限られるでしょう。
次に懲戒解雇が労働契約法15条に書いてあるような客観的に合理的な理由を有するか、社会通念上相当性を有するかが問題となります。
この場合考慮されるのは、労働契約法15条にある「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情」となり、少々難解ですが、労働者の行為の悪質性、企業秩序への影響、労働者の過去の懲戒歴、使用者の処分に至るまでの手続や、他の労働者への懲戒処分との均衡などが考慮されることになります。
例えば労働時間中に正当な理由なく私用のメールを何回か送る社員に対して、いきなり重大な措置である懲戒解雇をするのは懲戒の相当性を欠く可能性が高いですが、逆にメールの回数が異常に多かったり、既に戒告処分などを受けているのに性懲りもなく私用のメールを送り続けるなど反省の情が全く見られない場合にはメール送信程度とはいえ懲戒解雇が相当性を有する場合も考えられます。
このように様々な事情を考慮して、労働契約法15条の判断がなされるのです。
それでは、上のような事情を踏まえて、納得のできない懲戒解雇を受けた場合にはどうすればいいでしょうか。
後にも述べるように、懲戒解雇という複雑な問題になると自分だけで解決するということが非常に難しくなります。
そこで、懲戒解雇を受けたらまず会社の就業規則を見せてもらうようにするといいです。
就業規則には懲戒事由や効果が書かれているなど、労働契約の基礎となる事項が多数記載されています。
この内容を知っていたり、写しをもらえたりすると、後の対処が少しスムーズになるかもしれません。
また、解雇通知書を交付されずに、ただ口頭で懲戒解雇を言い渡された場合、それが就業規則のどの条文に該当する処分なのか明示させるために解雇理由証明書を交付してもらうのがいいでしょう。
懲戒解雇は先にもあったように、事情がかなり複雑な場合も多い上に、他の法律問題が綿密に関係している場合も少なくありません。
懲戒解雇を受ける場合、何か書面が交付されている場合も多い(該当する懲戒事由等が明示された書面)と思いますので、その書面や就業規則の写しなどがあれば弁護士とのやりとりもスムーズになります。
弁護士に相談した場合、懲戒解雇が無効になったり、金銭的解決が望めたりすることがあります。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。