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仕事をするうえで誰でも1度は聞いたことがある「パワハラ」。近年パワハラについては法整備が進むなど社会的な関心事になっています。
もし自分がパワハラにあってしまったら、どうすればいいのでしょうか。法律が整備されても、自分だけの問題と抱え込んでいては解決することはできません。
この記事では通称パワハラ防止法の特徴とパワハラをとりまく社会的状況を理解するとともに、自分がパワハラを受けていると感じた時の対応方法を確認してみましょう。
目次
社会的にも関心が高まるパワハラ問題。その対策として『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』(略称:労働施策総合推進法)が改正されました。
この法律は通称『パワハラ防止法』と呼ばれており、パワハラの定義や企業のハラスメント防止対策に対する義務が明記された非常に重要な法律となっています。
この法律の内容について確認してみましょう。
パワハラ防止法ではパワハラの定義が法律上で初めて明記され
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
この①~③の全てを満たすものがパワハラであることが定義されました。
これまで法律上何がパワハラなのか定義されていなかったことがパワハラの認定を難しくする原因になっていたため、今回の法改正はパワハラ問題の解決を大きく前進させるものと言えます。
パワハラ防止法では、パワハラの定義がなされるとともに、事業主の責務について次の点も明記されました。
なお、残念ながらこのパワハラ防止法ではこれらの事業主の責務に違反したことに伴う「罰則」の規程はありません。
しかし、厚生労働大臣は、労働施策総合推進法の施行に関し必要があると認めるときは事業主に対して、助言、指導または勧告をすることができるとされているほか(労働施策総合推進法33条1項)、特に上記①や②に違反している事業主が勧告に従わない場合には、その旨を公表する規程も整備されました(労働施策総合推進法33条2項)。
罰則が無くとも法律上の指導や勧告を受け、更にはそれに従わない事実が公表されているような状況では会社のパワハラに対する責任は明らかですので、労働者にとってはこのような規程が整備されていることもパワハラと戦ううえでは重要なポイントと言えます。
【参考】:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf
厚生労働省はパワハラ防止法の改正と併せて『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』を作成し、パワハラの代表的な6つの類型を示しています。
(イ) 身体的な攻撃(暴行・傷害)
(ロ)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(ハ)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(ニ)過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行 不可能なことの強制・仕事の妨害)
(ホ) 過小な要求
(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや 仕事を与えないこと)
(ヘ) 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
また、併せてパワハラに該当すると思われる例・該当しないと思われる例が記載されました。
例えば、精神的な攻撃については以下の通りです。
①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。
①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。
②その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。
のように例示されました。
もちろん、この類型で示された行為だけがパワハラでそれ以外はパワハラでは無い、ということではありません。指針においても『個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、これらの例は限定列挙ではないことに十分留意』とされています。
このように法律によって定められた対応について、施行日(法律が改正された日とは別で、実際のその法律が適用されることとなる日)は企業規模によって異なります。
大企業:2020年(令和2年)6月1日から
中小企業:2022年(令和4年)4月1日から
※中小企業の範囲は業種毎に定められています
業種 | ①資本金の額又は 出資の総額 | ②常時使用する 従業員の数 |
---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 (サービス業・医療・福祉等) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 (製造業、建設業、運輸業等 上記以外全て) | 3億円以下 | 300人以下 |
社会的な関心が高まっている一方で、なかなか減らないパワハラ。実際に世の中でパワハラはどの程度おきているのかを知れば、パワハラ問題に苦しんでいるのは自分だけではないと気づくことができます。
厚生労働省の発表している『個別労働紛争解決制度実施状況』によれば、都道府県労働局等に設置した総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は年々増加しています。
平成20年度:32,242件
平成25年度:59,197件
令和元年度:87,570件
もちろんこれはパワハラに該当する事案を含む「いじめ・嫌がらせ」として相談された件数ですので一概にパワハラだけが増加しているとは言えませんが、全体として職場のトラブルの相談件数は増加傾向にあります。
また一方では、相談体制が整ったことにより被害にあった労働者が相談窓口を利用しやすい環境が整ってきたと捉えることもできます。
一方、企業側が把握するパワハラの発生件数はどうでしょうか。
同じく厚生労働省が発表した『職場のパワーハラスメントに関する実態調査』の報告書(平成28年度実施)では企業内でのパワハラ発生状況についての調査結果発表されています。
この調査では、実際にパワーハラスメントに関する相談を1件以上受けたことがある企業は回答企業全体の49.8%で、実際にパワーハラスメントに該当する事案のあった企業は回答企業全体の36.3%にのぼっています。
つまり、3社に1社はなんらかのパワーハラスメント事案が発生している、ということになります。
厚生労働省の調査では、過去3年間に受けたパワーハラスメントの内容としては「精神的な攻撃」が最も多く、パワハラを受けたことがある人の54.9%が回答しています。
精神的な攻撃の内容の例としては「いること自体が会社に対して損害だと大声で言われた」「全員が閲覧するノートに何度も個人名を出され、能力が低いと罵られた」等が挙げられています。
次いで「過大な要求(大量の業務を強いられ長時間残業が継続する等)」「人間関係(突然会議から外される、自分だけ無視される等)」が続きます。
一方で「身体的な攻撃」は全体の回答でも6.1%と最も低くなっています。
身体的な攻撃は見た目にも明らかなため被害を訴えやすい一方、精神的な攻撃は被害者の心の中にストレスや不安といった見えない形で蓄積されるため他人から気づかれにくく、また被害を訴えるハードルが高くなっている要因と言えます。
パワハラ防止法では「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」がパワハラの要件とされましたが、同調査では、パワハラをする人、される人の関係性についても報告されました。
報告では、パワハラが発生するのは上司・部下の関係性だけでなく、「正社員から正社員以外へ」という雇用契約状の立場の違いを背景にしたものや、「後輩から先輩へ」「部下から上司へ」という一見上下関係が逆の立場であっても、専門知識の差や同じ部署での在職歴等を背景にパワハラが起きることも明らかにされています。
外見上の肩書に関わらずパワハラになり得るということは押さえておきたいポイントです。
また、「パワーハラスメントを受けたことがある」と回答した者が回答者全体の32.5%だったのに対し、「パワーハラスメントをしたと感じたり、パワーハラスメントをしたと指摘されたことがある」と回答した者はそれより少ない回答者全体の11.7%でした。
この回答からは、パワハラ被害者が加害者よりも多く、1人の加害者が複数名に対しパワハラを行っている可能性、もしくは加害者側が自分がパワハラをしていることに気づいていない可能性が読み取れます。
法律が整備されたとしても、被害を受けたまま黙っていてはパワハラを解決することはできません。
自分がパワハラを受けていると感じたら、どんな行動が必要なのか。それはパワハラの証拠となる「記録」をとること、相手への明確な意思表示をすること、適切な相談先を見つけることです。
以下、順を追って確認してみましょう。
パワハラは他人から気づかれない場合も多く、また精神的に苦しんでいることは自分にしか分かりません。
まずは自身の受けた被害の記録をとることで、その後会社、もしくは問題が大きくなって裁判になったような場合にパワハラが認定される客観的な証拠となります。
記録の仕方は5W1H(いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのようにして)を意識して事実が伝わるよう残します。
例えば「今日、上司に大きな声で怒鳴られて苦しかった」というだけでは、上司からすれば業務上必要な指導だったと言われてしまう可能性があります。
このような場合は『今日の朝礼で、他のメンバーも聞いている中、課長が、
先週までの営業成績が目標に到達していなかった私に対して、理由もきかずに一方的に部屋に響き渡る声で「お前はこの仕事に向いてないんだよ」と怒鳴られて、胸が苦しくなりオフィスにいるのも気まずくなった』のように詳細を記録することで、課長の言動に社会通念上の正当性があるか、業務上の必要性を超えた指導となっていた可能性を示すことができます。
もちろん自ら作成した記録だけでなく、メールや写真などで残っている資料があれば必ず保管しておくことで証拠としての効力は高まります。
また、自身に起きた具体的な被害があれば必ず書面での記録をとっておきましょう。例えば降格させられて給与が下がった場合はそれが分かる給与明細、病気になって会社を休んだ場合は出勤簿や休暇の申請書、うつ病を発症し病院で通院治療が必要になった場合は診断書や診療費用の明細書などがこれに該当します。
これらの具体的な被害は、もし将来被害を訴えてパワハラの認定を受けた場合、相手方に損害賠償として被害に対する補償を受けることができます。 些細なことでも記録していくことが、パワハラを認めさせて、自身の受けた被害を正しく補償してもらうための重要な証拠になります。
パワハラの加害者側は自分がパワハラをしていると気づいていないことが多くあります。
その状況で被害者側がずっと黙っていたり、我慢していると、加害者側は「本人が苦しんだり嫌がる様子は無いのでこれくらいは大丈夫だ」と勘違いさせてしまう可能性があります。
明確に「やめてほしい」と意思表示することは、相手にパワハラを気づかせるためにも重要なことであると同時に、もしパワハラが止まらなかった場合にも「やめてほしいことを伝えたにも関わらず、継続してパワハラが行われた」という事実となって加害者側が被害者の気持ちを顧みず一方的にパワハラを行った証拠にもなります。(もちろん、意思表示をしたことも記録に残しましょう)
ただし、相手が強力な権力を有していて、意見すればさらにパワハラがエスカレートする可能性があるので意見できないという場合も考えられます。
そのような場合には、身近に相談できる同僚や上司に相談しましょう。
例えば、同僚に相談しても「あの人には意見しない方がいいよ、もっといじめられるよ」とアドバイスを受けるようであれば、パワハラの加害者が日常的に意見させないような雰囲気を出していたことが明らかになり、やむを得ず「やめてほしい」と意思表示できなかった証拠にも繋がります。
パワハラは個人間で発生する問題ですが、同時に会社の問題でもあります。相手に意思表示をしてもパワハラをやめてくれない場合はまず会社に相談窓口がないか確認しましょう。
労働施策総合推進法ではハラスメントの相談体制について事業主の責務として「労働者からの苦情を含む相談に応じ、適切な対策を講じるために必要な体制を整備すること」と定められており、今後各企業で相談窓口の整備が進むと思われます。
ただし相談窓口、と言っても様々な形があり、
など、様々なケースがあります。
社外に相談窓口が委託されている場合、相談者にとっても会社と直接利害関係の無い第三者に相談できるため安心して相談できるメリットがあります。
一方で会社にとっては委託に伴う費用が発生するため、中小規模の会社ではまだ社内にのみ窓口を設置していることが多いようです。
社内にのみ相談窓口がある場合、会社の体制や担当者のハラスメント問題に対応するスキルによっては残念ながら十分な対応をとってもらえない可能性も考えられます。
そのような不安がある場合は、社内相談窓口を利用する前に信頼できる上司に相談するなどしてまずは味方を作るようにしましょう。相談側が複数名になれば、相談を受けた側もきちんとした対応をとらなければならないという意識にすることができます。
厚生労働省は「総合労働相談コーナー」を設置し、職場のトラブルに関する相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っています。
パワハラといっても関係者や問題の所在が複雑に関連しあっていてどこから相談していいか分からないというケースも多く、そのような場合にはこの総合労働相談コーナーが相談を受けながら問題を整理してくれます。
また、この窓口は「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」という法律に基づく助言・指導やあっせんという手続きを行ってくれます。
これは、労働法の専門家が間に入って双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図る手続きで、裁判を行うよりも手続きが迅速かつ簡便とされています。
もちろん公的な機関ですのでプライバシーには十分配慮して相談を受け付けてくれるので、社内の相談窓口よりも安心して相談できるということもメリットといえます。
会社の相談窓口や公的な機関を利用しても解決に繋がらなかった場合や、裁判でパワハラの加害者や会社側の責任を明らかにしたいという強い意志がある場合は弁護士に相談することになります。
弁護士に相談すると言うと裁判になってとても大変なことになると考えてしまいますが、必ずしも全てが裁判に繋がるわけではありません。
ほとんどの場合、まずは「内容証明郵便」で会社側にパワハラが行われないように対応をとることや、必要な対応をとらない場合には損害賠償請求を行うことなどを求める通知書を送付することになります。
弁護士はその後の会社側との交渉を本人と同席したり、本人の代理人として対応してくれたりします。
会社側も弁護士の対応となれば真摯に対応せざるを得ませんし、法的な問題点が客観的に説明されることで改めて自社の問題として認識される可能性が高くなります。
このような会社側との交渉を経ても解決が難しい場合、裁判によって加害者や会社側の責任を明らかにするという手続きに入ります。
裁判で会社側の責任が認められれば、体調を崩したことや働けなくなったことで失われた労働の機会や、精神的な苦痛に対する損害賠償が認められる可能性も高まります。
また、もし加害者側の行為に暴力行為や脅迫など違法行為が認められれば刑事事件として扱われ、刑事罰が科される可能性もあります。
裁判は長期化する場合もありますが、会社にとっても長期間の裁判に臨む負担は大きいですから、裁判中に示談や和解に向けた話し合いが設けられる可能性もあります。
先にも説明したとおり、『証拠となる記録』を用意して戦うということです。
パワハラ問題は加害者と被害者の認識の違いにより、多くの場合両者の主張は平行線になります。
そのような状況では、客観的な証拠をできるだけ多く示すことで加害者側の主張の矛盾や問題点を明らかにすることができます。
また、証拠とともに周囲の証言も重要です。
周りの同僚で同じ被害を受けた人や、自分がパワハラを受けている場面を見聞きした人の証言が得られれば、パワハラの実態を明らかすることに繋がります。
同じパワハラ被害にあっても、被害者側の気持ちは様々です。
「加害者に謝罪してもらいたい」
「降格・解雇などの人事を取り消してほしい」
「病気になってしまった損害賠償を求めたい」
など、それぞれに相手に求めることは違いがあります。
そして仮にパワハラ問題が解決したとして、その後も同じ会社で働き続けたいのか、すぐにでも転職したいのかなどによっても、会社側との交渉の仕方に違いがでてきます。
弁護士と相談するうえでも、自分がなにを望んでいるのかを明確にすることで、それを踏まえた法律上のアドバイスを受けることができるため、自分にとってのゴールがなんなのか、しっかり考えて対応を進めましょう。
みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。