研修に強制参加させるのはパワハラ?研修中も残業代は発生するのか

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

businessman putting hand shoulder female employee office work

2020年10月1日以降の自己都合退職者は、失業手当の給付制限期間が短縮される変更があります。

雇用契約では1日8時間の労働となっているにも関わらず、会社の研修と称して朝から2時間にわたって本を読む研修に参加させらている、定時後に食事や懇親会を兼ねた研修がある、といったケースがあります。

このような研修に強制参加させることは、いわゆるパワハラに該当するなど違法なのでは?と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このページでは研修に強制参加させることができるか、パワハラに該当する場合、研修への強制参加によって発生しうる問題についてお伝えします。

研修への強制参加の可否

まず、本来の業務とは別に研修に参加することを強制させられることは違法ではないのでしょうか。

業務と関連がある研修に強制参加させることは問題はない

仕事をする上で、知識や経験の無い社員に対して研修を行うこと自体は問題ありません。

業務についてのスキルを身に付けるためのものであれば、研修参加を強制されても、これを拒むことはできないというべきです。

強制参加である以上指揮監督命令下にあるので労働時間である

このような研修については、指揮監督命令下にある労働時間といえますので、研修参加の時間については給与の支払い義務が発生します。

指揮命令下におかれていたかどうかの判断については、厚生労働省が示している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、

客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものである

とされているので、直接研修として参加をするように指示されていた場合に限らず、参加を余儀なくされていたような場合には労働時間であると考えられます。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(「厚生労働省」平成29年1月20日策定)

法定労働時間外に研修を行うような場合には36協定が必要

所定労働時間として8時間の労働時間を設定している場合に、8時間の勤務を終えてから、または始業前に研修を行うようなことが想定されます。

研修は、労働時間に行われる労働ですので、法定労働時間外に行われるときには時間外労働(残業)となります。

会社が残業として労働者を拘束するには36協定が必要で、これがない場合には労働者は残業をしなくても良いことになっています。

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研修への強制参加でパワハラとなるようなケース

研修への強制参加がパワハラ(パワーハラスメント)となるケースについて確認しましょう。

パワハラ(パワーハラスメント)とは

そもそもパワハラ(パワーハラスメント)とはどのような行為をいうのかを確認しましょう。

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(パワハラ防止法30条の2)」によると

  • 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  • その雇用する労働者の就業環境が害される

労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、雇用環境・均等局が提出した「パワーハラスメントの定義」の中で次の6つの行為類型を挙げています。

  1. 身体的な攻撃(上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする)
  2. 精神的な攻撃(上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする)
  3. 人間関係からの切り離し(自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりする)
  4. 過大な要求(上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる)
  5. 過少な要求(上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる)
  6. 個の侵害(思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする)

具体的に研修への強制参加をめぐってパワハラが認定される可能性があるものについて、次のような行為でパワハラと認定されるケースがあります。

パワーハラスメントの定義について(「雇用環境・均等局」平成30年10月17日)

任意の研修に参加しない者に対して身体的・精神的な攻撃を加える

研修を強制する場合には会社は労働者に給与の支払いをしなければなりません。

そこで、任意の研修と称して、そこに参加しない者に対して、蹴る・殴るなどの身体的な暴力を加える場合はもちろん、陰口をたたく・大声で怒鳴る・長時間叱責をするといった精神的な攻撃を加えることで、間接的に参加を強制してくるケースがあります

  • 優越的な関係に基づいて研修への参加を強制しており
  • 給与を支払わないで事実上参加を強制している不適切なもの
  • 身体的若しくは精神的な苦痛を与えている

というパワハラの3要件をみたします。

そのため、パワハラと評価することができます。

研修への強制参加で生じる法的な問題点

研修への強制参加で生じる法的な問題点にはどのようなものがあるでしょうか。

パワハラに対する損害賠償請求

パワハラの被害にあった場合には会社に対して損害賠償請求をすることができます。

パワハラの内容が身体的な暴力行為に及ぶものである場合、これにより怪我をしたような場合には、その治療実費などを請求することができます。

また、パワハラ自体に対して精神的苦痛に対する慰謝料の請求をすることができますが、その額の相場は行為の悪質性・パワハラを受けていた期間などに応じて50万円~100万円程度です。

万が一被害者が自殺をしたような場合には、遺族が1,000万円以上の慰謝料を勝ち取った事例があります。

パワハラの結果精神的疾患になり働けなくなったような場合には休業損害の補償を請求することができます。

研修参加への給与未払い

強制参加の研修については給与の支払いの対象になります。

しかし、「研修だから」・「教わる立場だから」・「新人だから」、などの理由によって、研修参加への給与の支払いをしない場合があります。

当然ですが、研修時間に対応する給与の支払いはされるべきであり、法定労働時間を超えて研修をしている場合には割増賃金での支払いが必要です。

いわゆる残業代請求として、他の残業代の未払金があるような場合には、これらと一緒に請求をすることができます。

残業代請求をする際には、証拠の提出は請求をする労働者側がしなければなりません。

そのため、何時間程度の研修であったのか、研修を受けるようされた指示などを証拠として持っておく必要があります。

研修についてEメールで指示があったような場合には、そのメールをプリントアウトして持っておくなどの工夫が必要です。

研修で行ったものについて、自宅に持ち帰って課題として提出するようなものがあるような場合には、自宅で作業を行った分のパソコンログなどを取得します。

研修の労働トラブルQ&A

入社前の内定者研修では賃金が支払われない?

入社前の内定者研修であっても、会社から参加するように強制されている場合は賃金が支払われなければなりません。

参加を強制された内定者研修の場合、研修中は使用者の指揮命令下に置かれているため、労働時間に応じた賃金や交通費が支払われます。

パワハラ合宿研修・ブラック研修の対処法とは?

会社によっては合宿研修を実施されることがあります。

研修のために合宿をすること自体は違法ではないのですが、合宿という閉鎖的な環境を利用し、携帯電話を没収した上でパワハラまがいの研修が行われるケースもあります。

ブラック研修とも呼ばれるそのような研修では、次のような被害に遭うことが予想されます。

  • 暴力を振るわれた
  • 人格を否定するような罵倒をされた
  • 長距離歩行や登山を強要され、持病が悪化した
  • 大量の宿題を出されたせいでほとんど眠れなかった
  • 法定労働時間を超えて研修が行われていたのに、時間外手当が支給されなかった

上記のような被害に遭った場合、客観的な証拠を残すことができていれば時間外手当や慰謝料が支払われる可能性が高まります。

研修中のパワハラの証拠は音声の録音をおすすめします。

相手に許可を取らずに録音(秘密録音)をしたとしても、録音内容を周囲に言いふらしたり、インターネット上に拡散したりしない限り法的な問題はありません。
ただ、スマートフォンは研修参加時に没収される可能性があるため、ICレコーダーを秘密裏に持ち込んで録音することになるでしょう。

また、録音に加えて、いつ・誰から何をされたのかを具体的にメモに残しておけば証拠能力を高めることができます。

証拠を集めた後は、労働組合や弁護士などに相談すれば、会社に対して損害賠償金を請求する流れや行政指導を行ってもらう方法などを教えてくれるでしょう。

退職時に研修費用を請求されたら支払わないとダメ?

退職する際、数十万円分の研修費用を会社から請求されることがあります。

会社の言い分は「退職されるとあなたに投資した分がすべて無駄になってしまうので研修費用を返還してほしい」というものですが、この主張に正当性はありません。

なぜならば、会社の指示で研修を受けた場合、その研修は業務上必要なものであり、研修費用については会社が負担すべき費用と解釈されるためです。

また、仮に就業規則で「入社3年以内に退職した場合は研修費用を全額返還する」という旨の記載があったとしても、このような就業規則は労働基準法16条で定められている賠償予定の禁止に抵触する可能性がきわめて高いため、素直に研修費用の返還に応じる必要はありません。

ただし、業務との関連性が低い自主的な修学など、労働者本人が負担するのが妥当と判断されるような研修費用を会社が立て替えてくれる場合もあります。
そのような場合、退職する労働者は会社から研修費用の返還を求められたら応じなければならないと解釈されています。(「長谷工コーポレーション事件」東京地判平9.5.26)。

まとめ

このページでは研修への強制参加の可否にまつわることについてお伝えしてきました。
研修自体を拒否することはできませんが、任意の研修を強制するなどで、その結果パワハラに該当するような可能性もあります。
悩みがあるような場合には弁護士に相談してみましょう。

監修者


みんなのユニオン

執行委員岡野武志

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みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。