不当解雇の慰謝料とその相場、慰謝料以外に請求できる金銭についても解説!

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監修者:みんなのユニオン 執行委員
岡野武志

1971

2020年10月1日以降の自己都合退職者は、失業手当の給付制限期間が短縮される変更があります。

会社から不当な解雇を言い渡されてしまった場合、会社に慰謝料の請求はできるのでしょうか。

不当な解雇で貰えなくなってしまった給料や、辛い思いをした分の慰謝料を請求したいけれど、具体的にどんな請求ができるのか、どうやって請求したら良いのか、いまいち分からないという方は多いと思います。

ここでは、不当解雇を受けた場合に給料や慰謝料などを請求するための方法と、慰謝料を貰えるのはどういった場合でその相場はいくらくらいなのか、といったことについて解説します。

不当解雇で請求できる慰謝料と相場

不当解雇をされたのだから当然慰謝料を請求できると考える人も多いかもしれません。
しかし実は、慰謝料が請求できるのは不当解雇の中でも違法性がかなり強い場合に限られています
そして慰謝料がもらえる場合であってもその相場は、数十万円程度とそこまで大きな金額ではありません。

もっとも、不当解雇が認められれば、慰謝料とは別に、未払い分の賃金や、将来得られるはずだった賃金を請求することができます。不当解雇において、労働者が会社にしていく金銭請求はこの賃金の請求が中心です。

不当解雇の慰謝料とは

そもそも慰謝料とは、不法行為により被った精神的被害に対する損害賠償をいいます。

一方、不当解雇によって失った給料については財産的損害ですから、精神的損害である慰謝料とは別の枠で請求していくこととなります。

他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

民法710条

不当解雇が認められても、必ずしも慰謝料請求が認められるわけではありません
単に不当解雇をされた場合の精神的損害は未払い賃金等の支払いによって解消されると考えられるので、別途慰謝料が認められるケースは、精神的な苦痛が著しく大きい場合になります

具体的には、パワハラやセクハラ、執拗な退職勧告を伴うなど、不当解雇が悪質で違法性が高いような場合に慰謝料請求が認められる傾向にあります。

また、不当解雇では解雇が正当であることの主張立証は会社がする必要があるのに対し、不法行為の立証責任は慰謝料を請求する側にあります。
解雇された労働者が慰謝料を請求するためには、自分で不法行為の証拠を集めて主張と立証をしなければなりません。
そのため、不法行為の立証(慰謝料の請求)は、解雇の不当性を主張するよりも難しく、不当解雇が認められたとしても、必ずしも不法行為が認められるわけではありません

慰謝料
(精神的損害)
賃金相当の金銭
(財産的損害)
不法行為あり
不法行為なし××
不当解雇の金銭請求の可否

不当解雇を受けた場合に可能な請求の種類と慰謝料

不当解雇だと感じた場合、会社に残りたいのか、会社は辞めて金銭的な補償だけをしてもらいたいのかによって請求できるものが変わってきます。

しかし、どちらの場合であってもまずは解雇の有効性を争ったうえで未払い賃金の請求をするのが一般的です。

①会社に残りたい場合は解雇の有効性を争い、未払い賃金の請求をする

会社に残りたいのであれば、そもそもの会社の解雇が無効なものであると主張して、自分が未だ従業員のままであることを確認することになります。

解雇が無効なものであると認められれば、当然会社は賃金を払う義務があるので、未払い賃金の請求が可能です。
なお、そもそも解雇が無効である以上、未払い賃金は、会社と争っている間一切業務を行っていなくても、その期間分も含め請求することができます

また、未払い賃金の請求とは別に、慰謝料の請求ができる場合があります
ただし、会社に残ることができるような場合には、違法性の程度が低く、不当解雇によって受けた精神的苦痛は未払い賃金の支払いで解消されたと考えられるケースが多いため、別途慰謝料の請求をすることが難しいことが多いです。

解雇期間中に収入がある場合

解雇期間中の未払い賃金は、その間一切仕事をしていなくても請求することができますが、既に新たな仕事に就いているなどして、解雇期間中に収入がある場合には、その収入分は未払い賃金額から控除されます。
ただし、その場合でも判例は未払い賃金支払額の6割までは控除対象外としています(あけぼのタクシー事件・最一小判S62.4.2)。

例えば解雇期間中の賃金相当額が100万円(賞与などの一時金はなし)で、解雇期間に20万円の収入があった場合には、平均賃金の6割以内なので、収入分は控除されず100万円分の請求が認められることになります。
一方、解雇期間中の収入が100万円あった場合には、平均賃金の6割を超える40万円分が控除されるので、100-40=60万円の請求が認められることになります。

②退職を前提とする場合の金銭請求

退職をする場合であっても、不当解雇によって失ってしまったが本来は得られるはずであった将来の賃金を請求することができます
この請求できる金銭を逸失利益といいます。

逸失利益は、新たな仕事など代わりとなる収入源を見つけるまでに相当と考えられる期間分が認められます。
おおよそ3か月~半年分ほどが逸失利益の相場となっています。

逸失利益の請求においても、別途、慰謝料の請求ができる場合があります
また、退職金の規定があるにも関わらず、不当解雇によって退職金が支給されないか減額があったような場合には、退職金全額を請求することができます。

まずは①解雇の有効性を争って未払い賃金の請求を行うことが一般的

少しでも復職する可能性を考えているのであれば、退職を前提とする請求をしないように注意してください。退職の意思ありとみなされて不利益に働いてしまう可能性があります。

もう職場には戻れないし戻るつもりもないと決意していても、まずは解雇の無効を主張します。
職場復帰をするつもりはないから、お金さえもらえれば解雇は受け入れる、という立場で退職前提の交渉をしてしまうと思わぬ不利益を受けてしまうことがあるので要注意です。
会社側は辞めてもらいたいと考えている場合が多いため、解雇の無効を主張していくことは、会社との交渉や紛争を有利に進めるための材料になります。

失った給料相当額慰謝料
復職意思がある場合◎(未払い賃金)
退職を前提とする場合◎(逸失利益)

不当解雇と適法な解雇の区別

それでは、どのような解雇が不当解雇となるのでしょうか。
適法な解雇といえるためには、「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が認められる必要があります(労働契約法16条)。

不当な普通解雇

会社が労働契約を解消する行為一般を普通解雇といいます。

1 病気や妊娠を理由とする解雇
業務上傷病を負った場合や、妊娠の場合には、療養期間中の解雇を制限する法律上のルールがあるため、これらを理由にいきなり解雇されたような場合は不当解雇である可能性が高いです。

業務を理由としない傷病の場合には、十分な療養の機会を与えてもらえなかった場合、業務を遂行できる程回復したにもかかわらず解雇されたような場合、就業規則に反する場合、などは不当解雇に当たる可能性があります。

2 勤務成績を理由とする解雇
単に技術・能力・適格性が会社の期待したレベルに達していないというだけでの解雇はほとんどが不当解雇だと考えられます。

成績や勤務態度が不良であるというだけでなく、著しく劣っていて職務の遂行に支障を生じ、排斥すべき程度に達していて初めて解雇は正当化されます。

不当な整理解雇

普通解雇のうち、経営上の理由でなされる人員削減を整理解雇といいます。

整理解雇は労働者側に原因がなく、会社都合の解雇であるため、その正当性の判断は普通解雇の中でも厳しくなされます。

具体的には、以下の4つの要件を満たしていない場合には不当解雇となりえます。

整理解雇の4要件

  1. 経営不振でやむを得ない状況にあるなど人員削減の必要性があるか
  2. 配転や希望退職者の募集、賞与の削減など、解雇を回避する努力を尽くしたか
  3. 解雇対象となる者が客観的・合理的な基準で公正に選ばれたのか
  4. 十分な協議と説明を行うなど手続きの妥当性があったか

不当な懲戒解雇

懲戒解雇は、規律違反に対する制裁としての解雇をいいます。

懲戒解雇は、その性質上労働者に大きな不利益を与えるため、その正当性の判断は特に厳しくなされます。

懲戒解雇が認められるためには、懲戒の種類や懲戒事由が就業規則に明記され、周知されている必要があります。
さらに、懲戒事由に当たった場合であっても、その行為に対する懲戒として相当でない(行為に対して懲戒が重すぎる)というような場合や、弁明の機会を与えないなど妥当な手続きがとられなかった場合にも不当解雇となりえます。

なお、懲戒解雇では、就業規則の退職金規定に明記されていれば、退職金の全部又は一部を不支給することも認められます。
ただし、規定があれば懲戒解雇だからといって当然に不支給で良いというわけではなく、懲戒となる行為の程度によって不支給の適法性が判断されます。

また、原則として懲戒解雇であっても解雇予告手当は支払う必要があります。

会社によっては、懲戒解雇より軽い処分として「諭旨解雇」だったり、即時退職を勧告する「諭旨退職」と呼ばれるものが設けられていることがあります。
これらの処分も、実際上は懲戒処分としてなされるものであるため、不当なものであれば法的には懲戒解雇と同様に争うことができます。

不当解雇で請求可能な賃金・慰謝料以外の金銭と生活の確保

不当解雇では、未払い賃金や逸失利益の請求、慰謝料のほかにも会社に請求できるお金があります。
不当解雇を受けた後の生活を守るためにも併せてチェックしておきましょう。

1 解雇予告手当

会社が労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。30日前に予告をしなかった場合には、30日分以上の賃金を支払う必要があります(労働基準法20条)。
これを解雇予告手当といいます。懲戒解雇として即時に解雇された場合であっても解雇予告手当は請求することができる場合があります。

当然ですが、解雇予告手当を支払ったからといって会社が自由に労働者を解雇できるようになるわけではありません。
「給料の1か月分を支払ったんだから正当な解雇だ、会社と争うことはできない」などと言われたとしてもそんなことはありませんので注意しましょう。

2 退職金

不当解雇によって退職金が満額支払われなかったような場合には、全額の支払いを請求することができます。
ただし会社との交渉の中で退職金の請求をすることは、退職を受け入れることになる点は注意してください。

3 弁護士費用

弁護士費用は自己負担となるのが原則です。
ただし裁判となり、損害賠償請求が認められた場合には弁護士費用も損害額に含まれて認められる場合があります。

不当解雇の慰謝料や未払い賃金等を請求する準備

実際に、会社に対し慰謝料や未払い賃金の請求をしていく際の流れについてみていきます。

あわせて不当解雇の証拠など、集めておくべき書類などについても確認しましょう。
特に慰謝料の請求を考えている場合には、不法行為があったことの主張立証は自らが行わなければならないので、証拠集めは極めて重要です。

会社との交渉や手続きの流れ

会社との交渉は大まかに以下の流れとなります

⑴ 解雇理由書の交付請求

⑵ どのような請求をしていくかの方針を決定
前述のとおり、基本的には退職前提の主張はせずに、まずは解雇の有効性を争って未払い賃金の請求をすることが一般的です。慰謝料の請求についても決めておきましょう。

⑶ 内容証明で通知書の送付
会社に対し、内容証明郵便で、「解雇が無効であること」、「未払い賃金や慰謝料を請求すること」などの旨を記載した書面を送付します。

⑷ 任意の支払交渉
会社との話し合いにより、支払ってもらえる賃金や慰謝料の額などを取り決めていきます。
この際、退職を認めてしまったり、退職を前提とする主張をしてしまうとその後の交渉が不利になってしまう可能性があるため注意が必要です。

⑸ 労働審判・労働訴訟
任意の交渉で解決ができなかった場合には、労働審判や労働訴訟といった制度を利用して最終的な解決をしていくことになります

労働審判とは、労働紛争を、裁判所で、3回以内の期日で、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的に設けられた制度で、労働訴訟に比べて簡易かつ短期間で紛争の解決を図ることができます。
労働審判の、審理に要する期間は平均で約2か月半で、労働紛争全体の約8割が労働審判の申立てをきっかけに解決されています。

労働審判でも最終的な解決がなされなかった場合には、訴訟に移行することとなります。労働訴訟となると終了まで1年ほどの期間がかかります。

労働審判や労働訴訟といった制度を利用する際には、法律の専門家である弁護士を選任することが望ましいです。

専門家への相談とそのメリット

労働審判・労働訴訟に入る以前の段階であっても、以上のような手続きを個人で行うのはかなりの負担です。
不当な解雇を言い渡された場合には、まず弁護士や労働組合など専門家へ早めに相談することをおすすめします。

不当解雇の相談先

  • 労働基準監督署、労働局
  • 労働組合
  • 弁護士

これらは無料で相談が可能なところも多いです。早い段階で専門家への相談をすることができれば、集めるべき証拠や今後の対応などについて適切なアドバイスをもらえるでしょう。
また、専門家による通知が会社へ届くだけでその後の対応が大きく変わることもあります。
解雇という不安定な立場におかれた労働者にとって、紛争が長引くことは非常に大きなデメリットです。迅速な解決のためにも積極的に専門家を頼りましょう。

集めるべき不当解雇の証拠

①就業規則・雇用契約書
解雇は通常就業規則や雇用契約書に基づいて行われるので、これらの書類が必要となります。禁止事項や懲戒事由、懲戒手続き、退職金規定、賃金規定などについて記載がされています。

②解雇通知書・解雇理由証明書の請求
通常は解雇とともに解雇通知書を受け取ることが多いですが、口頭で解雇を言い渡された場合など、解雇通知書が交付されない場合があります。解雇の日付や態様の証拠となります。
解雇理由証明書については、労働者から請求をしない限り交付されないことが通常です。解雇を宣告されたらまずは解雇理由証明書を請求しましょう。

③人事評価書
解雇理由が勤務成績を理由とする場合など、人事評価書は重要な資料になり得ます。

④仕事上のメール等
上司とのやり取りを記録した媒体は、パワハラやセクハラなどを証明するための有力な資料ですので内容を保存しておきましょう。
社用端末など、解雇に伴って返還を求められる場合には特に注意してください。

⑤未払い賃金や残業代、逸失利益等の請求するのに必要な資料
賃金計算に必要な資料として、数か月分の給与明細や賞与の明細、源泉徴収票が必要です。
未払いの残業代も請求する場合には、残業時間と業務内容を証明できる資料があることが望ましいです。

まとめ

不当解雇では賃金や慰謝料の請求をすることができます。
まずは専門家に相談してみてください。

監修者


みんなのユニオン

執行委員岡野武志

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みんなのユニオンの執行委員を務める岡野武志です。当ユニオンのミッションは、法令遵守の観点から、①労働者の権利の擁護、②企業の社会的責任の履行、③日本経済の生産性の向上の三方良しを実現することです。国内企業の職場環境を良くして、日本経済に元気を吹き込むために、執行部一丸となって日々業務に取り組んでいます。