普通解雇される理由とは?~知っておきたいQ&A集~

20190212193819 a3b413311df59d88496a1df703276d4797ccb0cd

目次

Q1、職能資格等級制度の下で、能力不足を理由として解雇することができますか。

A、職能資格等級制度は長期雇用システムを前提としているので、「職能」が劣ることで昇格しないことはあっても、解雇理由となることはないと考えられています。

また、この「職能」の開発には、配置転換や上司の教育といった使用者の仕事の与え方が重要となります。

職能資格等級制度が前提とする長期雇用システムにおいては、使用者が強い人事権を持っているので、労働者が仕事を選択できることはほとんどありません。

そのため、仕事の成果が出なかったとしても、仕事に対する適正を考慮に入れて配置転換しなかった使用者側にも非があるとされています。

したがって、職能資格等級制度の下での能力開発の失敗は、原則として使用者にも責任があると考えられるので、能力不足を理由に解雇しても無効となります。

このように、能力不足を理由に解雇することは原則として無効ですが、例外的に有効となる場合もあります。

例えば、能力再開発の機会を付与されたにもかかわらず労働者がこれを生かせなかった場合には、使用者が負っていた能力開発責任を労働者に部分的に転嫁することができます。

Q2、成果主義の下で、能力不足を理由として解雇することはできますか。

A、成果主義人事とは、成果に対応して賃金等の人事上の処遇を行う制度です。

成果主義においては、能力を保有するか否かでなく、能力を発揮したか否かで評価されるので、客観性をもって評価することができます。

さらに、職能資格等級制度では、職能資格を下げることが原則として認められないのに対し、成果主義人事では、降職、降格に伴う賃金引き下げが認められているので、成果を出さないことに対応する労働者の不利益は、降格や賃金引き下げであって、当然に解雇されることは予定されていません。

しかし、企業として緩やかに解雇を認める成果主義人事制度を作ることが可能なので、成果主義人事の下で能力不足を理由とする解雇が有効となる可能性は、皆無ではありません。

ただし、その解雇に合理性、公正性が認められ、社会通念上相当と判断されるものでなければ、権利濫用として無効となります。

Q3、能力に比べて高賃金であることを理由として解雇することはできますか。

A、職能資格等級制度においては、長期雇用を前提として「遅い選抜」と賃金カーブの年功的運用を行っていたため、中高年層の賃金が高い状況になり、能力と賃金のミスマッチ、能力と処遇のミスマッチが生じていました。

この「ミスマッチ」について裁判例では、能力と賃金とが釣り合っていない労働者がいることは、会社側が自ら給与を上げすぎたことが原因にもかかわらず、労働者との合意によって給与を引き下げたり、合理的な給与体系を導入したりすることによって是正を図るというなら格別、作業効率が低い割に給与を上げすぎたという理由で解雇することは許されないとして、高すぎる賃金自体は解雇理由にならないと判断されました。

また、賃金の引き下げを伴う格付けの改訂について、裁量権の逸脱、濫用が認められない限り、使用者に裁量権が広く認められているので、能力に比べて高賃金の労働者に対しても賃金の引き下げを検討し、これが不可能な場合にはじめて解雇を考えることができます。一般的には、徐々に賃金を引き下げていくことで対応すべきです。

Q4、中途入社者を、能力不足を理由として解雇することができますか。

A、中途採用者は即戦力として期待されることが多いですが、長期雇用システムの下においては、中途採用であっても、定年までの雇用を予定することが通常となっています。

そのため、期待されるほどの即戦力でなかったとしても、当然に解雇ができるわけではありません。

中途採用の場合、地位または職種が特定された労働契約が締結されることがあります。

地位・職種が特定されている場合に、その地位・職種に求められる能力不足および適格性を理由とする解雇を認めた裁判例があります。

ただし、地位特定と認められるには、解雇されるリスクに相応した処遇を受けている必要があり、例えば、賃金がかなり高額であるといった要件が必要となります。

実務では、地位・職種特定者を降格・配転させてから解雇する例がみられます。

しかし、使用者が一方的命令で労働者を降格・配転したことは、地位・職種特定を主張することと矛盾します。また、地位・職種特定者については、地位・職種が雇用契約上特定されているので、使用者は一方的に地位・職種を変更することはできず、変更する義務を負うものではありません。したがって、地位・職種特定者に対しては、最初から解雇を選択すべきです。

また、地位・職種特定といえなくても、職務経歴書や面接時の会話内容といった入社の経緯から、一定程度の能力があることが労働契約の内容となることがあります。

この場合に、その「一定程度の能力」が不足していることは解雇事由として、通常の場合に比べると緩やかに解雇が認められます。

もっとも、地位や賃金が特に高い場合でなければ、緩やかに認められるといっても、学卒採用者と大きな差異なく判断されます。

Q5、協調性不足を理由として解雇することができますか。

A、協調性不足には、他人との関係構築に消極的すぎるタイプと、他人と衝突を繰り返すタイプの大きく分けて2つのタイプがあります。

消極的すぎるタイプでは、企業にとって業務に支障が生じることは滅多にありません。

口数が少なかったり、人づきあいが上手でないということはありますが、一応の仕事はこなすので、適所に配置すれば問題ありません。

これに対して、他人と衝突を繰り返すタイプは、自己主張が強かったり上司に楯突いたりして企業組織の円滑な運営を妨げます。

このような者の場合、職務規律違反や業務命令違反の方が解雇の大きな理由となるので、協調性不足が直接の解雇理由となることは少ないと考えられます。

協調性不足は人間関係の不全なので、配置転換を行い、上司や同僚を一変させて人間関係をリセットすることが重要となります。

それでも協調性不足が繰り返されるのであれば労働者側の帰責性は高まり、解雇できます。

Q6、遅刻・欠勤などの勤務態度不良を理由として解雇することはできますか。

A、遅刻や早退があってもわずかな時分であれば、労務提供に大きな影響があるわけではなく、また無断欠勤が数回あっても他の日に適切に就労していれば、一応は労務を提供しているといえるので、解雇するほどではありません。

しかし、軽微な非違行為も積み重なれば労働契約の基礎となる信頼関係を揺るがせることがあります。裁判例は、是正のために注意し反省を促したにもかかわらず改善されないなど、今後の改善の見込みがない場合には、解雇が有効となる可能性を認めています。

実際には、遅刻や欠勤だけを理由として解雇にまで至ることは少なく、能力不足や不適格性といった他の理由が付加されます。

また、使用者の権利濫用との関係では、解雇に至るプロセスが重視されます。解雇が権利濫用とされずに有効であるためには、職務に必要な能力、当顔労働者の地位に応じて期待される職責等を業種、規模、及び職務等から客観的に判断し、解雇の必要性が求められます。さらに、使用者の再三にわたる注意、指導にもかかわらず、労働者が一向に態度を改めないような場合でなければなりません。事前に懲戒処分をしておくことは必須ではありませんが、解雇の警告という趣旨を明らかにして懲戒処分をすることは適切だと考えられます。

Q7、私傷病を理由として解雇することができますか。

A、労務提供は労働契約上の労働者の義務であり、健康維持は労働者の責任ですが、病気自体が解雇理由となるわけではなく、健康を害して労務提供ができなくなったことが解雇理由となります。

しかし、病気で一時的に労務の提供ができないからといって、それだけで解雇できるわけではありません。病気によって労務提供ができないといえるためには、現に担当している業務を行うことができないということだけでよいのか、それとも使用者において当該労働者の状態に応じた職務を与える必要があるのかが問題となります。

職種や業務内容を特定した雇用契約においては、労働者が現に就業している職務を行うことが契約の内容となっているので、使用者には当初の雇用契約と異なる労働者の労務を受領しなければならない義務があるわけではなく、また労働者の病気に見合う職務を見つけて就労させなければならない義務があるわけでもありません。

しかし、職種や職務を特定せずに雇用契約を締結した労働者について、使用者は配転命令権を持っているので、現に担当している職務は行えなくても、配置転換を行うことができる場合には、その可能性を検討する必要があります。

なお、私傷病で労務提供ができない場合、休職とする企業も多くあります。

休職自体は就業規則や労働協約による労働契約上の制度なので、休職期間は各企業が自由に設定でき、休職制度がなくても違法とはなりません。

休職制度は法的には解雇猶予措置の性格を持ちます。

休職期間満了時に治癒しない場合に当然退職扱いとする就業規則がありますが、これは一種の合意解約に当たります。

また、休職期間満了時に別途解雇する場合も、休職期間中解雇を猶予したことにより、解雇の相当性を高めることになります。

休職期間途中の治癒の見込みがない場合には、原則に戻って解雇できることになりますが、治癒の見込がないことの立証責任は企業にあるので、事実上解雇は困難となります。

Q8、業務上の疾病を理由として解雇することはできますか。

A、労働基準法19条1項本文は、使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇してはならないとしています。

しかし、この解雇制限は、打切補償(労働基準法81条)を行った場合と天災事変、その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には適用されません。

療養開始後3年を経過しても負傷または疾病が治癒しない場合に、使用者は平均賃金の1200日分を支払うことで、その後の療養補償、休業補償等の労働基準法上の補償義務を打ち切ることができます。

また、労働者が労災保険上の傷病補償年金を受ける場合、使用者は打切補償を支払ったものとみなされます(労災保険法19条)。

労働基準法19条の「休業」とは、全部休業であり、出勤しながら療養のために一部休業している場合は「休業」とはならず、解雇制限を受けません。

Q9、うつ病や適応障害等の精神疾患を理由として解雇することはできますか。

A、精神疾患であること自体は解雇理由となりませんが、精神疾患により労務提供できないことは解雇理由となります。

精神疾患にも、周囲に積極的な支障を与えかねない場合と、消極的な支障にとどまる場合があるので、精神疾患だからといって一律に考えるのではなく、個々の事案に即した対応を講じる必要があります。

精神疾患が業務上疾病であるとすれば法律上の解雇制限が課されることから、精神疾患が業務上疾病であるか、私傷病であるかが問題となります。

実際には、明らかに業務上といえるものは滅多にありません。

精神疾患は恒常的長時間労働だけが原因ではなく、個人的な素因や家庭の事情等により発症するのが通常なので、多くの場合、私傷病として休職を検討します。

判例において、うつ病の労働者について2年間の休職期間途中の7カ月余り経過時に解雇した事案で、適正な対応を取り、適正な治療を受けさせることによって、治療の効果が期待できる場合、すぐに解雇するのではなく、再度の休職を検討するのが相当だとして、普通解雇を無効と判断したものがあります。

「うつ病は治る」とされており、安易な解雇は無効となりやすいので、就業規則に同一同種事由に基づく休職期間の通算規程を設けておいて、休職期間満了時の当然退職により対応すべきです。

また、事理弁識能力のない者に対する懲戒処分は無効となる可能性があるので、精神疾患の労働者に対して懲戒解雇を行う場合には、注意が必要です。

Q10、同僚を殴った労働者を解雇することができますか。

A、職場で上司や同僚に対して暴力をふるうこと自体は、労務提供と直接関係はありません。

しかし、このような行為は職場の秩序維持の観点から問題となり、職場規律違反行為となります。

暴力行為は非難が強く、暴力をふるう労働者を組織に置いてはおけないとして、多くの場合、懲戒の対象となりますが、偶発的に一発殴ったような比較的軽微な場合に懲戒解雇とする処分は重過ぎ、相当ではないと考えられます。

それでも、周囲の恐怖心を勘案して普通解雇を検討する場合もありますが、解雇である以上は厳格な判断がなされるべきです。

実務においても、どのような理由があったとしても暴力をふるうことは許されないので、暴力をふるう労働者との労働契約終了の必要性は高いと考えられます。

その際、退職勧奨をかなり強硬に行うことが賢明ですが、職場規律維持のためにあえて普通解雇を選択することもあり、態様が悪質な場合には、懲戒解雇も含めて検討する必要があります。

Q11、社内金品を窃取等した労働者を解雇することはできますか。

A、不知の第三者の金品を横領することと比較して、職場での非行を厳しく処断することは、組織維持・規律維持の観点からも、その必要性が高く、刑法上も業務上横領は刑が重くなっています(刑法253条)。

しかし、実際には、十分な証拠が出てこない場合も多く、それゆえ使用者は処分に慎重にならなければなりません。

このように証拠が出てこない場合が多いだけに、証拠が明らかな事案では、懲戒解雇のような比較的重い処分も有効となり、特に金員を直接取り扱う従業員の金員に関わる事件は、被害額がわずかでも懲戒解雇がなされることがあります。

懲戒解雇であれば退職金を不支給とする運用の企業もあるので、被害額がわずかの場合は、退職金が支給される普通解雇を選択することもあります。

法的には、就業規則を柔軟に作成しておけば、懲戒解雇でも退職金を支給できないわけではないので、普通解雇と懲戒解雇のいずれを選択するかは使用者の判断にゆだねられることになります。

Q12、転勤命令を拒否した労働者を解雇することができますか。

A、転勤命令の拒否を理由とする解雇紛争は少なくなく、使用者からすれば転勤拒否者が続出すれば組織が機能しなくなるので、転勤命令の拒否に対しては、懲戒解雇を選択する場合もあります。

転勤命令の有効性は、業務上の必要性と労働者の不利益の程度が総合衡量され、必要性は、他人に代替させることができないというほど高度のものであることは必要とされません。

よって、労働者の不利益が通常甘受すべき程度であれば、転勤命令は権利濫用とはなりません。

裁判例においても、転勤命令に関して使用者の配慮を求める判断が見られ、単身赴任手当、共働き配偶者に対する転職先紹介などの使用者の配慮を有効性判断の要素としているものもあります。

一方、転勤命令が有効であれば、解雇事由の「業務命令に違反したとき」に該当しますが、その解雇要件が相当でなければ権利濫用となり、解雇が無効となってしまいます。

解雇について、裁判所は解雇に至るプロセスを重視するので、より丁寧にコミュニケーションをとりつつ、転勤命令拒否者に対応する必要があります。

なお、転勤命令拒否を理由に解雇するのであれば、普通解雇が原則となります。

Q13、ブログにより会社を誹謗中傷した労働者を解雇することはできますか。

A、この場合、労働者の個人としての表現の自由と従業員としての誠実義務や機密保持義務などとが対立します。

会社を誹謗中傷しても業務時間外の私的活動なので、従業員としての地位とは関係ないとも考えられますが、誹謗中傷の内容によっては、機密漏洩となることもあります。

内容が真実に反する場合や、会社の秘密を漏洩するような場合には懲戒解雇も考えられますが、多くの場合は、真実を一部に含んでいたり、機密漏洩もあからさまでなかったりするので、この程度の誹謗中傷では、裁判紛争で重い処罰を科すことは無効となる可能性があります。

しかし、会社を誹謗中傷するような労働者との信頼関係は崩壊したものといえ、判例でも、労働契約上の信頼関係を著しく損なうものであることが明らかである場合には、普通解雇を有効と判断したものもあります。

なお、誹謗中傷の内容が悪質な場合には、労働者の非違行為に対する非難という性格をもつ懲戒解雇とする場合もあります。

Q14、内部告発をした労働者を、秘密漏洩等を理由として普通解雇できますか。

A、公益通報者保護法は、公益通報を奨励するものではなく、公益通報をした労働者に対する解雇等の不利益取り扱いを禁止するものです。

公益通報者保護法は、公益通報に伴って労働者が会社から情報を窃取したり機密を漏洩したりする職務規律違反行為までも正当化するものではないので、このような情報窃取や機密漏洩を理由とする解雇は、当然無効とはいえません。

態様、内容によっては普通解雇も考えられますが、態様が悪質である等の特段の事情がなければ、軽微な懲戒処分に限られます。使用者は慎重に対処しなければなりません。

内部告発であれば、それだけで正当性を有する、または違法性が大きく減殺されるということではありません。内部告発の正当性の判断にあたっては、

(1)告発内容の真実性

(2)告発の目的・態様の妥当性

(3)内部努力による是正できないこと

などが考慮されます。

なお、公益通報した労働者の解雇を禁止する要件は通報先によって異なります。

労務提供先に対する公益通報は、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると労働者が思料すればよいとされています。

これに対して、行政機関に対する公益通報は、思料するだけでなく、信ずるに足りる相当の理由が必要とされます。

さらに、マスコミなど第三者に対する公益通報では、思料すること、信ずるに足りる相当の理由があることに加えて、労務提供先や行政機関に通報すれば解雇等の不利益取り扱いを受ける、または証拠隠滅のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由があるなどの要件が必要とされています。

Q15、どの程度のセクシュアル・ハラスメントであれば解雇できますか。

A、セクハラの懲戒処分に関しては、3種に分類した人事院の指針が参考になります。

その分類とは、次のようになります。

(1)わいせつ行為など重大なセクハラには、懲戒解雇又は出勤停止

(2)軽微なセクハラを繰り返せば、出勤停止又は減給

(3)単発の軽微なセクハラには、減給又は戒告の懲戒処分

ただし、(2)であっても、相手方が精神疾患に罹患した場合は、懲戒解雇又は出勤停止となります。

このように、常習性があったり、態様が悪質であったりすれば、懲戒解雇や普通解雇もあり得ます。また、職場の風紀秩序を著しく乱し、会社の名誉信用を著しく傷つけた場合には、懲戒解雇を行うことができると考えられます。

実際には、(2)や(3)でも、労働者を企業から放逐する必要がある一方、懲戒解雇に堪え得るだけの証拠を企業が収集できない場合もあります。

そこで、懲戒処分とは別に、服務規律違反や適格性欠如を理由とした普通解雇を検討する必要があります。

そうすると、セクハラの事実を一応認定できれば、事実を否認している態度や改善の可能性がない点を強調して、普通解雇を根拠付けることができます。

Q16、管理監督責任を理由として上司を解雇することができますか。

A、何らかの非違行為をした労働者の上司が、管理監督不行き届きを理由に管理監督責任を問われることがありますが、その多くは比較的軽い懲戒処分にとどまります。

強い人事権の下では上司は部下を選べるわけではありません。また、上司も労働者であり、同じ労働者に不利益を課すのですから、当該上司に具体的な管理監督責任があったことを証明する証拠が必要となります。過度に重い管理監督責任を課すことには慎重にならなければなりません。

したがって、管理監督責任については、減給までの懲戒処分にとどめることが通常であり、懲戒解雇はもちろん、普通解雇を認めることはかなり難しいといえます。。

Q17、ユニオン・ショップ協定に基づき、労働者を普通解雇することはできますか。

A、ユニオン・ショップ協定とは、使用者と労働組合とが締結する労働協約において、使用者に対し、雇用する労働者のうち当該労働組合に加入しない者および当該労働組合員でなくなった者を解雇する義務を課すことをいいます。

この協定は、労働者の組合に入らない自由、組合選択の自由、雇用安定との衝突から、これを無効とする考え方もあります。労働組合の組織維持強化に対して強い影響力を持つ協定で、必要性が高いものです。

最高裁は、労働者の労働組合を選択する自由と他の労働組合の団結権を尊重して、他の労働組合に加入した者、または新たな労働組合を締結した者について解雇義務を課すことは無効であると判断しています。

したがって、労働者がどの労働組合にも加入していなければ普通解雇することができますが、ユニオン・ショップ協定を締結していない他の労働組合であっても、労働組合に加入している労働者を解雇することはできません。

Q18、普通解雇において、解雇理由を事後に追加することはできますか。

A、懲戒解雇では、解雇理由を解雇通知後に追加できないとされています。

最高裁でも、「使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を科するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない」と判断しています。

懲戒解雇で解雇理由の追加を認めない理由として、最高裁は、「一種の秩序罰」であることをあげています。

そのため、企業秩序違反行為に対する罰という性格を持たない普通解雇では、解雇理由を通知後に追加することが認められると考えられます。また、普通解雇は、雇用を終了させるべきという使用者の総合判断であり、要件が定まっているものではありません。

なお、普通解雇で解雇理由を追加する場合には、解雇事由自体を追加する場合と解雇事由を基礎づける事実を追加する場合があります。

就業規則上の解雇根拠条項を追加することについて、例えば、当初は「能力不足」を解雇事由としておきながら、後に「会社の信用を害した」ことを解雇事由として追加することは一貫性に乏しく、解雇事由該当性およびプロセス面での相当性が問われるので、慎重に検討する必要があります。

一方で、当初通知された解雇事由に関してこれを基礎づける事実を追加することは、かなり緩やかに認められます。

Q19、懲戒解雇事由に該当するときでも、普通解雇とすることはできますか。

A、一般的な就業規則では、普通解雇と懲戒解雇とは別の章に規定されています。

普通解雇は多くの場合、退職に関連する1項目として、または人事権の行使と並んで規定されるのに対して、懲戒解雇は、戒告・減給・出勤停止などの懲戒処分の1つとして規定されています。このように、普通解雇と懲戒解雇とは性格が異なります。

しかし、就業規則の中には、「懲戒解雇事由があるとき」という普通解雇事由を定めているものがあります。労働契約としては、このような合意に基づく解雇事由も成り立ちます。

懲戒解雇に比べると、普通解雇が無効となる可能性は低いといえますが、解雇事由が客観的に合理性を欠き、社会通念上相当でない場合は「解雇権の濫用」として解雇が認められません。就業規則の普通解雇事由に「懲戒解雇事由があるとき」と規定されており、懲戒解雇事由に争いのない事案であれば、普通解雇とすることで、社会通念上相当であり権利濫用にあたらないと判断されると考えられます。

これに対して、就業規則の普通解雇事由に「懲戒解雇事由があるとき」と規定されていない場合、懲戒解雇事由の存在を理由として普通解雇とすることは困難です。

もっとも、「当社の従業員として適格性を欠くとき」といった包括的事由がある場合は、懲戒解雇事由があることをもって適格性を欠くとすることができ、解雇事由該当性は肯定されます。

Q20、懲戒解雇として無効でも普通解雇として有効となりますか。

A、懲戒解雇と普通解雇とでは有効性の判断は大きく異なります。

懲戒解雇はあくまでも企業秩序違反に対する制裁としての解雇であり、普通解雇とは制度的に別のものです。

裁判例においても、懲戒解雇であると認定された場合に、懲戒解雇としては無効であるが普通解雇としては有効であると判断されることはなく、懲戒解雇の普通解雇への転換は認められません。しかし、後日、改めて普通解雇をすること自体は許されます。

実際には、懲戒解雇と普通解雇を区別する意識がなく、単に労働契約を終了させたいという意図で「懲戒」解雇されることも多くあります。

このような場合に裁判所は、解雇した時点で本位的には懲戒解雇、予備的には普通解雇の意思表示があったと認定することがあります。懲戒解雇事由に該当するとしてなした懲戒解雇が、苛酷に過ぎ懲戒解雇としては無効であるとしても、当該事由が普通解雇事由に該当する場合、使用者は予備的に普通解雇をすることができるということです。

これによって、懲戒解雇は無効であっても普通解雇として有効であるとして、普通解雇としての有効性があるかどうかで、労働契約終了の効果を認める判断をすることができます。

Q21、法律上解雇が禁止されるのはどのような場合ですか。

A、労働基準法19条1項は、使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養するために休業する期間およびその後30日間の解雇を禁止しています。また同条項は、産前産後の女性が同法65条の規定によって休業する期間およびその後30日間の解雇を禁止しています。なお、同法65条1項は、使用者は6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には、その者を就業させてはならないと規定し、同条2項は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないと規定しています。

これらの期間中は、いかなる理由でも解雇することはできませんが、解雇の効果が発生することを阻止する趣旨なので、期間中に解雇の意思表示が到達すること自体は違法ではなく、期間満了後に解雇の効果が発生して労働契約が終了することは許されます。

この解雇制限の例外は、業務上災害の療養について打切補償を支払った場合、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合に認められます。この事由には、労働基準監督署長の認定が必要となります。

労働基準法3条は、国籍、信条または社会的身分を理由とする労働条件の差別的取り扱いを禁止しており、解雇もこの「取り扱い」に入るので禁止されます。

なお、社会的身分とは生来的なものを意味し、雇用形態はこれに含まれません。

労働組合7条1号は、労働組合員であること、労働組合に加入またはこれを結成しようとしたこと、もしくは労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇、その他の不利益取り扱いを禁止しています。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「雇用機会均等法」)6条4号は、性別を理由とする解雇の差別的取り扱いを禁止し、9条2項は、女性労働者が婚姻したことを理由とする解雇を禁止しています。

さらに、雇用機会均等法9条3項は、女性労働者が妊娠・出産したこと、労働基準法65条の産前産後休業を請求・取得したこと、軽易な作業への転換を請求または実現したこと、時間外労働・深夜労働をしないこと等を請求または実現したことなどを理由とする解雇を禁止し、雇用機会均等法9条4項は、妊娠中および出産後1年を経過しない女性労働者の解雇を禁止しています。

ただし、妊娠または出産に関する事由を理由とする解雇でないことを事業主が証明したときは、妊娠中または出産後1年経過しなくても解雇することができます。

また、雇用機会均等法17条2項及び18条2項は、労働者が同法に規定する都道府県労働局長の援助又は紛争調整委員会の調停を求めたことを理由とする解雇を禁止しています。

育児・介護休業法10条、16条、16条の4は、労働者が育児休業、介護休業、看護休暇の申し出をしたこと、または休業、休暇をとったことを理由とする解雇を禁止しています。

労働基準法104条2項は、労働者が労働基準法違反の事実を行政官庁または労働基準監督官に申告したことを理由とする解雇を禁止しています。

また、公益通報者保護法3条は、①通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合②通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合③通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、労務提供先や行政機関に通報すれば解雇等の不利益取り扱いを受ける、または証拠隠滅のおそれがある場合という同条の要件を満たす公益通報をした労働者の解雇を禁止しています。

Q22、解雇予告は常に必要とされますか。

A、労働基準法20条1項本文は、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」としています。

30日前に解雇予告をしない場合には、「解雇予告手当」として使用者は予告にかえて30日分以上の賃金を支払わなければなりませんが、この場合、解雇の効力は通知日に発生します。

解雇予告または解雇予告手当の支払いをしなくてもよい例外の1つは、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」(労働基準法20条1項ただし書き)です。「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」とは、天災事変等やむを得ない事由があり、かつ、そのために事業継続が不可能となった場合でなければならないので、天災事変等のやむを得ない事由であっても、事業の継続が可能であれば、これに該当しません。

このときには、労働基準監督署長の認定が必要となります。

具体的には、事業主の故意または重大な過失なく事業場が火災により焼失した場合、事業場の倒壊・類焼等により事業の継続が不可能となった場合です。

これに対して、事業主が経済法令違反等のため強制収容された場合、税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合、事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難・金融難に陥った場合等はやむを得ない事由には当たらないので、原則どおり解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。

なお、複数の事業場のうちの1つが天災事変に遭ったときには、他の事業場への配置転換も考えられますが、全員を配置転換することまでは求められません。

また、「労働者の責めに帰すべき事由に基いて解雇する場合」(労働基準法20条1項ただし書き)も、解雇予告または解雇予告手当の支払いは不要です。「労働者の責めに帰すべき事由」とは、労働者において、解雇予告手続きにより保護されるに値しないほど重大または悪質な服務規律違反あるいは背信行為に及んだことを意味します。

これは、就業規則の懲戒解雇事由と必ずしも一致するものではなく、懲戒解雇が有効であってもこれに該当するとは限りません。

このときにも、労働基準監督署長の認定が必要とされます。

労働基準監督署長の認定に関する解釈例規(昭和23年11月1日 基発1637号、昭和31年3月1日 基発111号)によると、次のような場合には労働基準監督署長の認定が認められるとされています。

(1)原則としてきわめて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合

(2)一般的にみてきわめて軽微な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について手段を講じていたことが客観的に認められ、しかも労働者が盗取、横領、傷害等またはこれに類する行為をした場合

(3)事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それは著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの、または労使間の信頼関係を喪失せしめるもの

(4)賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合

(5)(4)の行為が事業場外で行われた場合でも、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの、または労使間の信頼関係を喪失せしめるもの

(6)雇い入れの際の経歴詐称

(7)他の事業場への転職

(8)2週間以上にわたる無断欠勤をして出勤督促に応じないとき

(9)出勤不良で数回にわたる注意を受けてもあらためない場合

ただし、これらの場合は、労働基準監督署長の認定を得れば解雇予告または解雇予告手当の支払いが不要というだけであり、解雇の有効性を担保するものではありません。

また、労働基準法20条1項本文は、(1)日々雇い入れられる者、(2)2カ月以内の期間を定めて使用される者、(3)季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される者、(4)試用期間中の者には適用されません。

ただし、

(1)日々雇い入れられる者が1カ月を超えて引き続き使用されるに至った場合

(2)2カ月以内の期間を定めて使用される者

(3)季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される者が所定期間を超えて更新された場合

(4)試用期間中の者が14日を超えて引き続き使用されるに至った場合には、労働基準法20条1項本文が適用されます(同法21条)。

Q23、期間満了を理由とする労働契約終了にも、解雇予告が必要とされますか。

A、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)は、開始当初から期間満了による労働契約終了が労使間で合意されています。

労働基準法20条は使用者が一方的に行う「解雇」の意思表示に関する規定なので、有期労働契約の期間満了には適用がありません。

解釈例規においても、「一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後に引き続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限りその期間満了とともに終了する」として、労働基準法19条1項の適用はなく、解雇予告は不要であるとされています(昭和23年1月16日 基発56号)。

反復更新された場合には期間の定めのない契約に転化するとの考え方もありますが、有期労働契約として反復更新された以上、有期労働契約であることにはかわりはないと考えるべきです。

有期労働契約の締結について、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年10月22日 厚生労働省告示357号)では、更新しないこととする場合は、満了日の少なくとも30日前までにその予告をすることが求められている一方で、関連通達には、これを怠っても法的効力に影響しないと明記されていることからも、有期労働契約に解雇予告は必要ありません。

Q24、予告または予告手当の支払いをしない解雇は無効ですか。

A、労働基準法20条は解雇に当たって、30日前の予告または解雇予告手当の支払いを求めており、これを怠った場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります(同法119条1号)。

また、同法114条は、同法20条に違反した使用者に対して、裁判所は労働者の請求により付加金の支払いを判決で命じることができるとしています。

しかし、同法20条に違反した解雇の私法上の効果について法は明記していません。

解雇予告または解雇予告手当の支払いがなかった場合に、解雇を常に無効と考えることは、労働基準法114条の存在と矛盾します。

よって、解雇予告や解雇予告手当の支払いがない解雇も有効であると考えられます。

最高裁は、「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、又は予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇として効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、又は通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずる」としています。

したがって、使用者が即時解雇にこだわらない限り、30日の経過によって解雇は有効となります。

Q25、解雇予告手当の受け取りを拒む労働者に対して、どのように対応すればよいですか。

A、労働基準法20条は、解雇に当たって、30日前の予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上に当たる解雇予告手当の支払いを求めています。

民法484条は、持参債務の原則を規定していますが、この場合、現実の提供(同法493条本文)だけでなく、「債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知して、その受領を催告すれば足りる」という口頭の提供(同条ただし書き)も可能です。

民法484条の弁済の提供の効果は「債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる」ことにあるので(同法492条)、弁済の提供の方法としては労働者が受け取り得る状態にあることで足りるとされています。

具体的には、次のように考えられています。

(1)郵送等の手段により労働者宛てに発送を行い、この解雇予告手当が労働者の生活の本拠地に到達したとき

(2)労働者に解雇予告手当を支払う旨通知した場合については、その支払日を指定し、その日に本人不参のときはその指定日、また支払日を指定しないで本人不参のときは労働者の通常出頭し得る日

Q26、解雇予告手当と社内貸付金を相殺することはできますか。

A、解雇予告手当は退職金と同様に、労働契約終了を契機に支払われるものですが、退職金とは違い、労働者が予測しない収入の途絶から保護するために、法律に基づいて支払義務が生じるものです。

この手当は労働の対償として支払われる賃金ではないので、労働基準法24条の賃金全額支払いの原則の適用はありません。

使用者による一方的相殺も、労働基準法24条の適用はないので、法律上当然に禁止されるものではありません。

しかし、解釈例規では、「予告手当の支払いについて、使用者と労働者との間に債権債務の関係が発生することなく、予告手当の支払は、単にその限度で予告義務を免除するに止まるもの」であり、法理上相殺の問題は生じないとされています(昭和24年1月8日 基収54号)。

実務的には、解雇予告手当と他の債務を使用者が一方的に相殺することには慎重であるべきであり、あえて相殺する場合には、合意相殺という形をとり、その旨の書面を残すべきです。

Q27、30日分に満たない解雇予告手当を支給した場合であっても解雇は有効となりますか。

A、労働基準法20条2項は、「前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる」としています。

したがって、予告日数が30日に満たない場合、足りない分だけ解雇予告手当を支払う必要があります。

また、労働基準法20条違反の解雇であっても、通知から30日間の経過または解雇予告手当の支払いによって労働契約終了という解雇の効果が生じるので、この解雇予告手当の支払時期については、遅くとも解雇日までにされなければなりません。

仮に、支払予定であった解雇予告手当の一部が実際には支払われなければ、その金額に相当する平均賃金の日数分だけ労働契約が終了しないことになり、その分、労働者には賃金請求権が発生します。

このように、労働基準法20条は少なくとも30日分の平均賃金の支払いを解雇の有効要件としていますが、平均賃金の算定は複雑なので、概算額を支給した結果、法が要求する額には不足が生じる場合もあります。

労働基準法20条2項を厳格に適用すると、不足額に相当する平均賃金分だけ労働契約が延長することになりますが、解釈例規は、残りの不足額が速やかに支払われれば、その即時解雇は有効であるとして、追加払いを認めています(昭和24年7月2日 基収2089号参照)。

Q28、解雇権濫用に当たる場合、不法行為として損害賠償を請求することはできますか。

A、解雇が無効となれば、原職復帰が認められます。

現職復帰以外にも、労働者からの請求として謝罪が求められることがありますが、この場合、使用者に何らかの意思表示を求める請求が裁判所の判決で認容されることはほとんどありません。

損害賠償請求に関しては、そもそも労使間に解雇しないという契約はないので、債務不履行としての損害賠償請求権は認められません。

考えられるのは、不法行為としての損害賠償請求ですが、未払い賃金の支払い請求が別途認められるので、損害を主張立証しにくく、慰謝料請求が認められるにとどまります。

解雇の有効性を判断する場合には、解雇権濫用法理の厳格性が問題となる一方で、不法行為の成否の判断では、解雇自由の原則が重要な問題となります。

このため、不法行為に関する各要件の該当性の判断が厳しくなり、慰謝料の損害賠償請求も認められにくいので、解雇無効であっても損害賠償請求が認められないのが原則です。

ただし、解雇に当たり使用者が差別的意図を有していたり、解雇事由が存在しないことが明白であったような特別な事情がある場合に限り、慰謝料請求が認められることもあります。

Q29、解雇係争中に他の事業所から賃金を得ていた場合には、期間中の未払い賃金から減額されますか。

A、裁判で解雇無効判決が確定すれば、労働者としての地位が確認されますが、解雇から無効判決確定までの間、労働者は労働契約上の義務である労務提供を行っていない事実は変わりません。

しかし、この場合、労務提供をできなかったのは使用者側に責任があるので、民法536条2項の危険負担の債権者主義により、労働者の反対給付請求権が消滅せず、賃金相当額の支払いが認められます。

判決で認容される賃金相当額は、解雇されていなかったならば確実に支給されていたであろう賃金額であり、基本給や職務手当はこれに含まれますが、現実の就労を前提とする時間外労働割増賃金は、確実に支給されたとはいえないので含まれません。

通勤手当も、実費補償的性格を有するので含まれません。

解雇期間中に労働者が他の事業所で働いて得た収入(中間収入)は、反対給付額として認められる賃金相当額から控除しなければなりません(民法536条2項ただし書参照)。

しかし、無効な解雇も労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由による休業」なので、平均賃金の6割は保障されます。

したがって、中間収入は、確実に支給されていたであろう月額賃金のうち、平均賃金の6割を超える部分の範囲内で控除されることになり、これで控除しきれない中間収入が残る場合には、平均賃金の算定の基礎に算入されない賞与から別途控除されます。

このとき、賞与から控除できるのは、賞与の算定期間に相応する中間収入に限られます。

Q30、解雇を争うための裁判手段には、どのようなものがありますか。

A、司法上の救済制度としては、主として、仮処分、本案訴訟、労働裁判等があります。

仮処分では、民事保全という簡易な手続きにより、証人尋問などを経ずに決定が出されます。

ただし、解雇事件では地位保全までは認められず、賃金仮払いにとどまることが通常です。

しかも、仮払いされる期間が限られることもあり、第2次、第3次の仮処分申し立てが必要になります。

これに対して、本案訴訟は、証人尋問などを経て地位確認および賃金の支払いを判決するもので、仮処分と比べて時間がかかります。

労働裁判は、労働組合や企業人事の実務家が労働審判員として労働審判官(裁判官)とともに決定を下すもので、3回の期日で労働審判という一応の結論が出ます。ただし、異議が出されれば労働審判は失効し、訴訟手続きへ移行します。

Q31、内定取り消しの有効性は、解雇と同様に厳格に判断されますか。

A、採用内定により、始期付解約権留保付労働契約が成立すると考えられますが、最高裁は、採用内定の実態は多様なので、「当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して」判断すべきとしています(最高裁二小判決昭和54年7月20日)。

内定取り消しは、留保解約権の行使であり、その可否は、採用内定通知や採用内定者が提出する誓約書に記載された取消事由を基準に判断することになりますが、形式的に内定取消事由に該当しても、「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」場合には、内定を取り消すことができません(同判決)。

内定取り消しが許されるのは、具体的に、

(1)内定者が卒業できなくなった場合

(2)健康状態が悪化し、入社日以降の就労が困難な場合

(3)経歴詐称が発覚した場合

(4)違法行為により逮捕・起訴された場合

等が考えられます。

実務では、特に中途採用の内定取消に関しては、企業に厳しい判断がなされることが多くあります。近時の裁判例でも、中途入社者について採用内定をいったん留保した上で調査、再面接後に再度採用内定をし、後日これを取り消した事案で、「原告(労働者)の能力、性格、識見等に問題があることについて、採用内定後新たな事実が見つかったこと、当該事実は確実な証拠に基づく等の事由が存在する必要がある」として、採用内定取消を無効としたものがあります(東京地裁判決平成16年6月23日)。

採用内定取消について十分に慎重であることが適当ですが、採用後の本採用拒否または解雇よりは紛争が大きくなりにくいので、事案に即した判断が必要となります。

Q32、本採用拒否は、解雇と異なり緩やかに認められますか。

A、本採用拒否とは、試用期間中の使用者から労働者に対する労働契約を終了させる意思表示です。

就業規則の規定や当該企業における実情または事実上の慣行を重視しますが、一般的な企業においては留保解約権の行使と解し、試用期間中も当初から通常の期間の定めのない労働契約です。本採用拒否は留保された解約権の行使であり、解雇の一種と考えられています。

最高裁も、「本件本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない」としたうえで、留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められると判断しています(最高裁大法廷判決昭和48年12月12日)。

ただし、留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許されます。

したがって、採用決定時に知ることができず、または知ることが期待できないような事実に関しては、通常の解雇よりも緩やかに本採用拒否すなわち留保解約権の行使が認められますが、それ以外の事実については、通常の解雇と同様に厳格に本採用拒否の有効性の判断がなされます。

Q33、長期雇用システムの変容は、本採用拒否の有効性に影響しますか。

A、長期雇用システムの変容に伴い、本採用拒否の事案も変化しており、入社後に仕事をさせてみたところ仕事ができないことが明らかであった場合や、疾患が明らかになった場合が、本採用拒否の主たる対象となります

裁判例でも、中途採用であっても、労働契約として試用期間の合意がある場合には、そのまま試用期間を認め、その上で「客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認されうる」という規範への当てはめによって、個別事案に即した妥当な判断がなされています。

実務的にも、本採用拒否においても通常の解雇と同様に厳格に判断されると考えられており、試用期間中に問題があると判断した場合、本採用を拒否することが妥当です。

ただし、有効性判断は現実的に厳しい場合もあるので、試用期間中の早期に問題点を指摘し、改善の機会を与えることによって、手続き的に十分な状況を作った上で、それでも改善されない場合には退職届を提出してもらうことが必要となります。

Q34、労働者から解雇理由を書面で要求された場合、どのように対応すればよいですか。

A、解雇は一定の方式に従って行わないと不成立または無効とされる要式行為ではないので、口頭で解雇しても直ちに無効とはなりません。

しかし、法律は退職に関連する紛争を防止するため、退職時の証明書の交付を使用者に求めているので、退職の場合、労働者が退職の事由に関する証明書を請求した際には、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならず(労働基準法22条1項)、労働者は、退職後にはじめて請求することができます。

また、退職の事由が解雇の場合には、解雇の理由も記載しなければなりません。

解雇の事由は具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記載しなければなりません(平成11年1月29日 基発45号、平成15年12月26日 基発12260002号)。

一方で、解雇の場合、労働者が解雇の予告をされた日から退職する日までの間において、解雇の理由について証明書を請求した際、使用者は遅滞なく証明書を交付しなければなりません(労働基準法22条2項)。

退職時の証明書が退職後でなければ請求できないのに対し、解雇理由の証明書は予告期間中に請求できます。

なお、即時解雇の場合には、退職時の証明書を請求することになります。

スマホで入れる「無料オンライン労働組合」

職場改善をはじめよう

専門家が作る職場改善の通知を無料で送ることができます

不当解雇・失業の無料電話相談